糖尿病では、肝、腎の糖放出、腎臓の糖再吸収共に増加している

糖尿病では、耐糖能正常者に比べ、肝臓、腎臓での糖放出および腎臓の糖再吸収が増加している。1)

Maximal renal glucose reabsorption capacity (
Tmax) をこえるグルコース負荷で、尿糖が排泄される。
Tmax となる血糖値を域値と呼ぶ。コントロール不良の糖尿病では、尿糖排泄域値は上昇している。
耐糖能正常者では、Tmax ~124mg/min、域値~180mg/dl、コントロール不良の糖尿病では、
Tmax~350mg/dl、域値 ~280mg/dlとなる。2)

SGLT2阻害薬は、2型糖尿病の尿糖排泄域値を低下させ、尿糖排泄量を増加させる。2, 3)

Meyer C et al. Abnormal renal and hepatic glucose metabolism in type 2 diabetes mellitus. J Clin Invest. 1998 Aug 1;102(3):619-24.

Abdul-Ghani MA, DeFronzo RA, Norton L. Novel hypothesis to explain why SGLT2 inhibitors inhibit only 30-50% of filtered glucose load in humans. Diabetes. 2013 Oct;62(10) :3324-8.

Sha S, Devineni D, Ghosh A, Polidori D, Chien S, Wexler D, Shalayda K, Demarest K, Rothenberg P. Canagliflozin, a novel inhibitor of sodium glucose co-transporter 2, dose dependently reduces calculated renal threshold for glucose excretion and increases urinary glucose excretion in healthy subjects. Diabetes Obes Metab. 2011 Jul;13(7):669-72. 

Arx を抑制する抗マラリア薬 Artemether

化合物のスクリーニングにより、Arxを抑制する抗マラリア薬 Artemether が見出された。
Artemether は、核内のArx を細胞質へ移動させることで、その機能を抑制し、α cell identity を失わせる。またこの薬剤は、gephyrinを介して、GABA受容体シグナルを増強する。

 Artemether は、α細胞株 αTC1にインスリンを発現させる。αTC1細胞内にはproglucagonが増加する。グルカゴン添加でArtemether のインスリン誘導効果は減弱する。

Artemether のアナログを飲料水に混ぜ3ヶ月間投与したマウスの膵島径はコントロールに比べ大きい。
streptozotocin で糖尿病を誘発させた後、Artemether を経口投与したマウスでは、血糖値が改善する。
Artemether は72時間の処置で、ヒト膵島のインスリン分泌を増加させる。

Li J et al. Artemisinins Target GABAA Receptor Signaling and Impair α Cell Identity. Cell. 2017 Jan 12;168(1-2):86-100.e15. doi: 10.1016/j.cell.2016.11.010. Epub 2016 Dec 1.

GABA受容体シグナル増強はα細胞をβ細胞に分化転換する。

GABA長期投与
Pax4を発現させたα細胞はβ細胞に分化転換する。1)
この時、γ-aminobutyric acid (GABA)シグナリングに関わる遺伝子の発現が上昇していた。

GABAを添加し長期に培養した膵島では、α細胞にPax4が発現するようになり、Arx発現が低下する。α細胞からβ細胞に分化転換が認められ、その経過中にはNeurogenin (Ngn) 3が発現する。2)

GABAを長期腹腔内投与したマウスで、膵管周囲の細胞の増殖が認められる。
Lineage tracing では、膵管周囲と膵島内にNgn3でマーキングされる細胞が増加する。
Ngn3を発現した膵管上皮細胞は、膵管から移動し (delamination)、内分泌前駆細胞となる
(epithelial-mesenchymal transition (EMT)) 3) GABA投与により、α細胞からだけでなく、膵管周囲細胞も内分泌前駆細胞へ分化転換している 。2)

生後2か月の野生型マウスをstreptozotosinの処置後、GABAあるいは生理食塩水を長期に腹腔内投与をおこなった。 生理食塩水を投与されたマウスは高血糖で死亡するが、GABAを投与したマウスでは、β-like cell mass が形成され、生き残ったマウスの血糖値は正常化する。
GABAはインスリンとともにβ細胞から分泌され、α細胞でGABAシグナリングを介してグルカゴン分泌を抑制する。
GABAはBlood-brain barrier を通過しないので、GABA長期投与はβ cell mass を回復する新規治療の候補となる。2) 

1 Collombat P, Xu X, Ravassard P, Sosa-Pineda B, Dussaud S, Billestrup N, Madsen OD, Serup P, Heimberg H, Mansouri A. The ectopic expression of Pax4 in the mouse pancreas converts progenitor cells into alpha and subsequently beta cells. Cell. 2009 Aug 7;138(3):449-62.

2 Ben-Othman N et al. Long-Term GABA Administration Induces Alpha Cell-Mediated Beta-like Cell Neogenesis. Cell. 2017 Jan 12;168(1-2):73-85.e11. doi: 10.1016/j.cell.2016.11.002. Epub 2016 Dec 1.

3 Gouzi M et al. Neurogenin3 initiates stepwise delamination of differentiating endocrine cells during pancreas development. Dev Dyn. 2011 Mar;240(3):589-604.
Ngn3を発現した膵管上皮細胞 (ductal lining cell) の膵管から移動 (delamination)が、内分泌前駆細胞となる最初のステップである。
snail2 はE-cadherin の転写を抑制する。Ngn3 は、post-transcriptional にsnail2の発現をコントロールしている。


Dnmt1 と Arxの不活化により、α細胞がβ細胞へ分化転換する

 β細胞が大幅に減少した際に、α細胞の1%がβ細胞へ変換する。1, 2)
Arx はα細胞の重要な転写因子であり、グルカゴン+Arx-細胞は、α細胞からβ細胞へ分化転換の候補細胞となる。

DNA methylation が、α細胞、β細胞の分化と成熟に重要である。DNA methyltransferase 1 (DNMT1) とArx の抑制により高率にα細胞はβ細胞へ誘導される。電気生理学的検討でも、α細胞からされたβ細胞は、本来のβ細胞と同様の特性を有している。3)

罹病歴4から5年1型糖尿病患者では、グルカゴン+細胞の10%にArx-細胞が認められ、2%にインスリン+細胞が認められる。グルカゴン+PDX-1+細胞、グルカゴン+Nkx6.1+細胞も認められる。
罹病歴がより長い場合、グルカゴン+Arx-細胞が5%程度と減少する。3)

1 Chera S et al. Diabetes recovery by age-dependent conversion of pancreatic δ-cells into insulin producers. Nature. 2014 Oct 23;514(7523):503-7.

2 Thorel F et al. Conversion of adult pancreatic alpha-cells to beta-cells after extreme beta-cell loss. Nature. 2010 Apr 22;464(7292):1149-54.

3 Chakravarthy H et al. Converting Adult Pancreatic Islet α Cells into β Cells by Targeting Both Dnmt1 and Arx. Cell Metab. 2017 Feb 12. pii: S1550-4131(17)30044-X. doi: 10.1016/j.cmet.2017.01.009. [Epub ahead of print]

FoxO1と脱分化(dedifferentiation)

 胎児膵でFoxO1 とNgn3は共存する (co-expressed)。
ヒト胎児膵島細胞で、FoxO1のノックダウンは、NGN3+細胞、NKX6.1+細胞を増加させる。1)

腸管でNgn3発現細胞にFoxO1を欠失させた結果、インスリン産生細胞が出現した。
腸管内分泌前駆細胞がインスリン分泌細胞へ分化転換した。2)

β細胞特異的にFoxO1を欠失させたマウスは、耐糖能、インスリン、グルカゴン値は正常であるが、加齢や多経産 (multiparity) など生理的ストレス時に β cell mass が減少し高血糖となる。β cell mass の減少は、β細胞がインスリンや重要な転写因子の発現を失い “empty β cell” となるためで、細胞死ではなく脱分化(dedifferentiation) である。
脱分化したβ細胞は、Neurogenin3 、Oct4などを発現し、progenitor-like cell となる。
FoxO1は β細胞の特性の維持とβ細胞以外の膵内分泌細胞への転換を抑制している。3)

1 Al-Masri M et al. Effect of forkhead box O1 (FOXO1) on beta cell development in the human fetal pancreas.
Diabetologia. 2010 Apr;53(4):699-711.

2 Talchai C, Xuan S, Kitamura T, DePinho RA, Accili D. Generation of functional insulin-producing cells in the gut by Foxo1 ablation. Nat Genet. 2012 Mar 11;44(4):406-12, S1. doi: 10.1038/ng.2215.

3 Talchai C, Xuan S, Lin HV, Sussel L, Accili D. Pancreatic β cell dedifferentiation as a mechanism of diabetic β cell failure. Cell. 2012 Sep 14;150(6):1223-34. 
“FoxO1 is required to maintain β cell identity and prevent β cell conversion into non-β pancreatic endocrine cells in response chronic pathophysiologic stress.”

プロフィール

N. Ishizuka

Author:N. Ishizuka
糖尿病専門医です。インスリン分泌の基礎研究を経て臨床に戻りました。これまで読んだ論文を臨床に生かしていこうと思い、ブログ形式でまとめています。

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