アラキドン酸の代謝産物 20-HETEは、autocrine および paracrine によりFFR1 (GPR40) を活性化する。

GPR40は、ライガンドの刺激によりPhospholypase C (PLC) を活性化する。PLC は、Phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate (PIP2) を diacylglycerol (DAG) と inositol trisphosphate (IP3) に加水分解する。
IP3の増加は、ER からカルシウム誘導のトリガーとなり、インスリン小胞の開口放出が促進される。
DAG/PKC、PKD 経路もインスリン開口放出に関与する。1)

GPR40 のライガンドをスクリーニングした結果、20-hydroxyeicosatetraenoic acid (20-HETE)が見出された。FFAR1を強発現させたCOS-1細胞で、20HETE はパルミチン酸、リノール酸、α-linoleic acid よりも細胞内カルシウム濃度を増加させる。

β細胞では、グルコース濃度依存性に20-HETE が産生される。
グルコース刺激によりβ細胞内のカルシウム濃度が上昇、phospholipase A2 が活性化されリン脂質からアラキドン酸が合成される。cytochrome P450-dependent ω-hydroxylase によりアラキドン酸が 20-HETEに変換される。(論文内に図があります。)
β細胞で、20-HETE は autocrine、paracrine により GPR40を介してインスリン分泌を増強する。2)

1. Prentki M, Matschinsky F M, Madiraju SR, Metabolic signaling in fuel- induced insulin secretion. Cell Metab. 18, 162-185 (2013).
脂肪酸がインスリン分泌を増強する機構はこちら

2. Tunaru S et al. 20-HETE promotes glucose-stimulated insulin secretion in an autocrine manner through FFAR1. Nat Commun. 2018 Jan 12;9(1):177.
 

ハブとなるβ細胞

グルコースに対する膵島の反応は、1-10%のβ細胞が、ハブとなりペースメーカーの役割を果たしている。
gap junction 阻害薬処置で、ハブ細胞の検出数は低下する。

ハブ細胞は、未分化と成熟の両面をもつ
他の細胞に比べ、インスリン含量、PDX-1、Nkx6.1の発現は低下している。Ngn3 の発現は認めず、グルカゴンとは共染色しない。
グルコキナーゼの発現は増加している。ミトコンドリアタンパク Tomm20は他の細胞と同等の発現。
グルコキナーゼ発現が増加しているため、周囲の細胞に比べ、グルコース上昇に対し敏感であるかもしれない。

糖尿病に類似した サイトカインによる proinflammatory な環境や、gluco(lipo)toxicity な環境でハブ細胞数は短期間に減少する。
gap junction マーカーconnexin-36の発現も低下する。

ハブ細胞の電気的興奮の伝播には、gap junctionに加え、膵島内の自律神経も関与している。

Johnston NR et al. Beta Cell Hubs Dictate Pancreatic Islet Responses to Glucose Cell Metab. 2016 Jul 21. pii: S1550-4131(16)30306-0. doi: 10.1016/j.cmet.2016.06.020. [Epub ahead of print]

p16はミトコンドリア生合成を増加させ、インスリン分泌を増強する

 p16はcyclin D、cyclin dependent kinase を抑制し、CDKN2A locus にコードされる。
CDKN2A のgenetic polymorphism は2型糖尿病との関連が指摘されている。

膵島におけるp16の発現は年齢とともに増加する。

β細胞にp16を発現させたマウスでは、膵島が大きく、グルコース刺激によるインスリン分泌とインスリン含有量が多い。

p16を強発現させたβ細胞で、ミトコンドリア数が増加、Peroxisome proliferative-activated receptor gamma coactivator 1 α (PGC1α) の発現量が増加している。PGC1α は、ミトコンドリアの生合成の master transcription factor として知られている。

p16によるインスリン分泌増加、ミトコンドリア活性化には、mechanistic target of rapamycin (mTOR)、Peroxisome proliferative-activated receptor(PPAR)-γが関与している。

Herman A et al. p16(Ink4a)-induced senescence of pancreatic beta cells enhances insulin secretion. Nat Med. 2016 Apr;22(4):412-20.

β細胞の代謝シグナル(4)

 モノアシルグリセロール (MAG)を加水分解するABHD6 の発現を抑制したマウスでは、高脂肪食で肥満が起こらない。摂餌量が低下、エネルギー消費量が増加する。
MAGの上昇は、PPARα、PPARγを活性化し、褐色脂肪細胞を増加させる。
摂餌量が低下した原因は明らかでない。

Zhao S. et al. α/β-Hydrolase Domain 6 Deletion Induces Adipose Browning and Prevents Obesity and Type 2 Diabetes. Cell Rep. 2016 Mar 29;14(12):2872-88.

アンドロゲン受容体シグナルは、インスリン分泌を増強する。

テストステロン欠乏は肥満にかかわらず血糖値が上昇しやすい。
抗アンドロゲン治療を行う前立腺がん患者では2型糖尿病を発症しやすい。

ヒトの男性、オスのマウスの膵島で、アンドロゲン受容体はインスリンと共存し、大部分は核外に存在する。
テストステロンは、核外のアンドロゲン受容体を介して、cAMP 依存性にグルコース刺激インスリン分泌を増強する。

アンドロゲン受容体の活性化は、GLP-1によるグルコース刺激インスリン分泌を増強する。

Navarro G. et al. Extranuclear Actions of the Androgen Receptor Enhance Glucose-Stimulated Insulin Secretion in the Male. Cell Metab. 2016 Apr 26. pii: S1550-4131(16)30118-8.
膵β細胞特異的にアンドロゲン受容体(AR) を欠損させたオスのマウスでは、Dihydrotestosterone によるグルコース刺激下のインスリン分泌増強作用が認められない。

Wortham M, Sander M. High T Gives β Cells a Boost Cell Metab. 2016 May 10;23(5):761-3.

Keating NL, O'Malley A, Freedland SJ, Smith MR. Diabetes and cardiovascular disease during androgen deprivation therapy: observational study of veterans with prostate cancer. J Natl Cancer Inst. 2012 Oct 3;104(19):1518-23.


β細胞の代謝シグナル(3)

 β細胞でグルコース、FFA、アミノ酸が代謝される。

グルコースの代謝産物 Glycerol-3-phosphate は、Glycerol/FFA cycle へも合流する。
(グルコース→glucose-6-phosphate → dihydroxyacetone phosphate → Glycerol-3-phosphate →Glycerol/FFA cycle)
Glycerol/FFA cycleから生じるモノアシルグリセロール (MAG) は、グルコース刺激インスリン分泌を増強する。MAGは、Munc-18に結合し、インスリンの exocytosisを促進する。

グルタミンは、グルタミナーゼによりグルタミン酸となる。
グルタミン酸は、ミトコンドリアマトリックスで、glutamate dehydrogenase (GDH) により代謝され、α-ケトグルタル酸となりTCA cycle に入る。GDH の gain-of-function mutation は、hyperinsulinemic hypoglycemic syndrome の原因となる。この疾患ではタンパク質の多い食事で低血糖が誘発される。
ロイシンは、GDHを活性化する 。

Prentki M, Matschinsky FM, Madiraju SR. Metabolic signaling in fuel-induced insulin secretion. Cell Metab. 2013 Aug 6;18(2):162-85. doi: 10.1016/j.cmet.2013.05.018. Epub 2013 Jun 20.

Zhao S. et al. α/β-Hydrolase domain-6-accessible monoacylglycerol controls glucose-stimulated insulin secretion. Cell Metab. 2014 Jun 3;19(6):993-1007. doi: 10.1016/j.cmet.2014.04.003. Epub 2014 May 8.

膵島の first responders とlow responders

 グルコース刺激に対して膵島が均一にインスリンを分泌するわけではない
一部の膵島が、貯蔵されているインスリンの大部分を放出する (first responders)。これまで in vitroでは観察されていなかった現象。他の膵島が全くインスリンを分泌していない noponders か、ごく少量のインスリンを分泌している low responders であるのかは確定していない。

まとめ
ヒトプロインスリン遺伝子発現を蛍光化したマウスで、膵臓の表面から、Photometrics Coolsnap EZ digital camera (Roper) を用いて、膵島のインスリン分泌を観察した。胃にグルコースを注入し血糖値>280 mg/dl となった時、20%未満の細胞で、50%を超えて蛍光強度が低下する。蛍光強度が1%より少ない変化は検知できない。蛍光強度を検知できない膵島が少量のインスリンを分泌している可能性は否定できていない。
少量のインスリンを分泌する膵島 low responders が多数あれば、first responders よりも血中のインスリン値上昇に貢献している可能性がある。
麻酔下で観察は、血圧や膵島に対する中枢性神経制御に影響している可能性もある。

Zhu S et al. Monitoring C-Peptide Storage and Secretion in Islet β-Cells In Vitro and In Vivo Diabetes. 2016 Mar;65(3):699-709. doi: 10.2337/db15-1264. Epub 2015 Dec 8.

Rizzo MA, Emptying the Pool: Modular Insulin Secretion From the Pancreas Diabetes. 2016 Mar;65(3):542-4. doi: 10.2337/dbi15-0041.


グルタミン酸受容体拮抗薬は糖負荷試験の血糖値を改善する。

N-methyl-D-aspartate receptor (NMDAR)は、四量体で3つの異なるサブユニット (GluN1、GluN2、GluN3) からなる。GluN1はglycine、 GluN2はグルタミン酸の受容体で、GluN1をかならず含む。
GluN1ノックアウトマウスはインスリン分泌が亢進している。
 
NMDAR活性化は、KATP channel を活性化し、カルシウムチャネルを閉じるため、インスリン分泌を抑制する。
一方、NMDAR 拮抗薬は、細胞内カルシウムのoscillation を増強し、インスリン分泌を促進する。
 
NMDAR拮抗薬、dextromethrophan (DXM) は、dextrophan (DXO) に代謝される。
DXOは、ヒトおよびマウス膵島で、基礎インスリンを増やさずにグルコース刺激インスリン分泌 (GSIS) を増加させ、exendin-4によるGSIS を増強した。
 
DXM の長期経口投与はdb/db マウスの膵島インスリン含量、islet cell mass、血糖値を改善した。
small clinical trial で、DXMを4日間服用後の糖負荷試験では、負荷後の血糖値が低下する。
 
(Dextromethorphan hydrobromide hydrate は、鎮咳薬(商品名メジコン)として現在使われています。)
 
1. Wollheim CB, Maechler P. Beta cell glutamate receptor antagonists: novel oral antidiabetic drugs? Nat Med. 2015 Apr 7;21(4):310-1. doi: 10.1038/nm.3835.

2. Marquard J et al. Characterization of pancreatic NMDA receptors as possible drug targets for diabetes treatment. Nat Med. 2015 Apr;21(4):363-72. doi: 10.1038/nm.3822. Epub 2015 Mar 16.

 
 

インスリン分泌における亜鉛の役割 ZnT8と糖尿病2

1) 亜鉛はインスリンのクリスタル形成に重要
2) 亜鉛はインスリン分泌を抑制、肝臓ではインスリンのクリアランスを抑制している。
3) 血中亜鉛濃度が高いと糖尿病のリスクが低下する。

続きを読む

プロフィール

N. Ishizuka

Author:N. Ishizuka
糖尿病専門医です。インスリン分泌の基礎研究を経て臨床に戻りました。これまで読んだ論文を臨床に生かしていこうと思い、ブログ形式でまとめています。

最新記事
カテゴリ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
119位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
自然科学
16位
アクセスランキングを見る>>
検索フォーム