パラクラインによるα細胞のスイッチオフ仮説
まとめ
α細胞が受けるシグナル
グルコース濃度変化
周辺細胞からのparacrine signal
血中アドレナリン circulating adrenalin
グルカゴン分泌における電気生理学的活動性の役割
グルコースが存在しなくてもα細胞のATP-dependent K+ (KATP) channel は、ある程度の活動性を示している。
低グルコース濃度でα細胞のKATP channel は強く阻害される。その結果、細胞膜が脱分極し活動電位が生じovershoot となる。膜の脱分極により、高電位依存性P/Q型カルシウムチャネル(high-voltage gated P/Q-type Ca2+ channel)が活性化されカルシウムが流入、グルカゴンが分泌される。
KATP channelの活性化は、さらに細胞膜を脱分極させパラドキシカルにグルカゴン分泌を抑制する。これは脱分極の間、電位依存性ナトリウムチャネル (voltage-gated Na+ channel)、N型カルシウムチャネル (N-type Ca channel)が不活化され、活動電位サイズが減少するためである。活動電位サイズのわずかな変化がグルカゴン分泌を惹起あるいは停止させることが明らかになっている。
パラクラインによるα細胞のスイッチオフ仮説 Switch-off hypothesis
グルタミン酸 Glutamate、アセチルコリン acetylcholineは、α細胞から分泌されグルカゴン分泌にポジティブフィードバックをかけている。グルタミン酸は、AMPA型イオン型グルタミン酸受容体 (ionotropic glutamate receptors (iGuRs) of the AMPA type)に作用し、細胞膜を脱分極させ、電位依存性カルシウムチャネルを開口させる。その結果、細胞質カルシウムが増加、グルカゴンが放出される。グルカゴン自体もポジティブフィードバックにはたらく。
β細胞あるいはδ細胞から分泌されるγ-aminobutyric acid (GABA)、インスリン、Zn2+、セロトニン、ソマトスタチンは、α細胞を阻害しグルカゴン分泌を減少させる。インスリンはα細胞のGABA受容体を細胞膜にトランスロケーションさせることによって作用している。
β細胞から分泌されるセロトニンserotoninは、α細胞の5-HT1F receptorを介し、cAMPレベルを減少させグルカゴン分泌を抑制する。5-HT1F receptorはα細胞に限局して発現している。
β細胞由来のセロトニン分泌が低下、cAMPに対する抑制が消失した場合のcAMPのレベルは、グルカゴン分泌の基礎値を上昇させ、その結果グルコース濃度変化への対応が低下する。セロトニンシグナルの低下によりグルコース変化に反応したグルカゴン分泌が失われる。Selective serotonin reuptake inhibitor (SSRI)は、膵島内のセロトニンレベルを増加させグルカゴン分泌を抑制する。SSRIの長期服用で低血糖に対する反応が低下すると報告されている。
グルカゴン分泌はグルコースの絶対値というよりグルコース濃度変化に反応しているようで、膵島灌流実験で、グルコース濃度15から11 mmol/Lへ下げた場合でもグルカゴン分泌が誘導される (Hysteresis 履歴現象)。
低血糖時にβ細胞のインスリン分泌が突然停止することが隣接したα細胞によるグルカゴン分泌に必要なシグナルとなる。α細胞のポジティブフィードバックがα細胞を刺激するが、Na +チャネル、Ca2+チャネルが不活化されておりグルタミン酸受容体の感受性は低下している。グルコース濃度がひとたび上昇するとβ細胞、δ細胞がグルカゴン抑制因子を放出しチャネルの不活化、受容体の感受性低下を回復させる。バラクラインによる抑制は、高血糖時に重要であると考えられ、α細胞をリセットし、血糖低下に対応可能にしているともいえる。
1型糖尿病でα細胞はβ細胞減少、コントロールできない血糖値、交感神経支配の消退にさらされ、1型糖尿病診断後、年月を経過して血糖値に対するカウンターレギュレーションの喪失が認められる。
1型糖尿病のα細胞でカルシウムチャネルの活性と遺伝子発現が低下していることが2つのスタディで示された。電気的興奮性のポテンシャルの一部喪失は、慢性的適応によるものかもしれない。
Panzer JK, Caicedo A. Targeting the Pancreatic α-Cell to Prevent Hypoglycemia in Type 1 Diabetes. Diabetes. 2021 Dec;70(12):2721-2732.
Almaça J et al. Human Beta Cells Produce and Release Serotonin to Inhibit Glucagon Secretion from Alpha Cells. Cell Rep. 2016 Dec 20;17(12):3281-3291.
β細胞から分泌されるセロトニンserotoninはα細胞の5-HT1F receptorを介し、cAMPレベルを減少させグルカゴン分泌を抑制する。
グルタミン酸はα細胞から分泌されグルカゴン分泌を促進する。