膵島を腸間膜へ移植する

1型糖尿病患者の膵島移植では、門脈から膵島を注入し肝臓に生着させる手技が一般的であった。今回の報告では、25年の罹病歴がある43歳の1型糖尿病患者に腹腔鏡で腸間膜に膵島を移植した。
移植した膵島の上にトロンビンと血漿で、degradable biologic scaffoldを形成させた。
免疫抑制剤を使用し、移植12カ月後でも血糖値が正常化が続きインスリン治療を必要としていない。

腸管は血流が豊富で、腸間膜で分泌されたインスリンは直接門脈に流入する。移植細胞を取り除く場合も容易であるという利点がある。
Bioengineering of an Intraabdominal Endocrine Pancreas. N Engl J Med 2017 May 11;376(19):1887-1889

Urocortin3を発現しないインスリン陽性細胞は未成熟β細胞

大人のβ細胞はほとんど増殖しない。 未成熟β細胞は糖尿病細胞治療の候補となる。

Urocortin3 (UCN3) は、Nkx6.1、MafAが定常状態になり、MafBの発現が失われた時に発現し、成熟β細胞のマーカーとなる。

UCN3 - インスリン +  細胞の特徴
・膵島の辺縁に存在しマウスでβ細胞の1%でヒト新生児膵島、大人の膵島、罹病歴の長い1型糖尿病の膵島にも認められる。
・核内にPDX-1は発現しないがNKX6.1が発現し、MafB、Neurogenin3 も発現する。
・Lineage tracing の結果、過去にUCN3を発現しておらず、α細胞からβ細胞へ分化転換する途中の細胞である。
・グルコース刺激インスリン分泌、TCAサイクル、酸化的リン酸化に重要な遺伝子発現が低下している。
・電位依存性カルシウムチャネルによる細胞内へのカルシウム流入が認められない。

Virgin Beta Cells Persist throughout Life at a Neogenic Niche within Pancreatic Islets: Cell Metabolism

Blum B, Hrvatin SS, Schuetz C, Bonal C, Rezania A, Melton DA. Functional beta-cell maturation is marked by an increased glucose threshold and by expression of urocortin 3. Nat Biotechnol. 2012 Feb 26;30(3):261-4. doi: 10.1038/nbt.2141.
Urocortin3は、β細胞から分泌される蛋白で、成熟β細胞にマーカーとなる。
生後1日のマウスは、低グルコース濃度でもインスリン分泌が多く、大人のマウスでは低グルコース濃度ではインスリン分泌は低い。E18.5、P1、P10、大人のマウスで膵β細胞の遺伝子発現の比較をおこなった結果、Urocortin3が見出された。

Meier JJ, Butler AE, Saisho Y, Monchamp T, Galasso R, Bhushan A, Rizza RA, Butler PC.  Beta-cell replication is the primary mechanism subserving the postnatal expansion of beta-cell mass in humans.Diabetes. 2008 Jun;57(6):1584-94.
大人のβ細胞はほとんど増殖しない。
 

1型糖尿病の細胞治療 Boston Autologous Islet Replacement Program (BAIRT)

1型糖尿病の細胞治療 Boston Autologous Islet Replacement Program (BAIRT)
幹細胞由来β細胞による1型糖尿病治療の今後の見通しについて、ハーバード大から記事がでています。
Douglas Melton教授は、バイオ関連企業 Semma Therapeutics (Semma)を設立し、ボストンの他の機関と連携して幹細胞由来β細胞の臨床応用に向けたクリニカルトライアルを来年にも始める見込みです。実際の細胞治療の初回は、3年から4年先となるようです。

ボストンでは複数の機関が共同で、1型糖尿病治療のため、Boston Autologous Islet Replacement Program (BAIRT) を開始する。プログラムのデザインはHSCI、BWH、JDCが行い、SemmaとDFCI が細胞を供与する。

最初のクリニカルトライアルはごく少人数で、難治性膵炎で膵摘出した患者など膵島自己免疫のない患者で行う予定。
まずDFCI、HDCI、Semmaが幹細胞から分化誘導するプロトコールを最適化する。BWH、JDCが候補となる患者を決定する。
次にDFCI の細胞作成施設が、患者から幹細胞を分化させ、Semmaのプロトコールに沿ってβ細胞を分化誘導する。
実際の初回細胞移植は3年から4年先になる見込みとなっている。

DFCIは血液幹細胞移植の実績があり、ボストンで唯一、Good Manufacturing Practice (GMP) cell production program を確立している。DFCIはこれまで、BWH および Boston Children’s Hospitalとパトナーシップを組み骨髄血液幹細胞移植をサポートしている。

Harvard Stem Cell Institute (HSCI)
Brigham and Women’s Hospital (BWH)
Joslin Diabetes Center (JDC)
Semma Therapeutics (Semma)
Dana-Farber Cancer Institute (DFCI)

First area cell transplantation center, Expansive effort by Harvard affiliates will seek a cure for diabetes

Bringing Beta Cells to Market

 

1型糖尿病患者の皮膚線維芽細胞から作成したインスリン産生細胞

1型糖尿病患者の皮膚からiPS細胞を誘導しさらにインスリン分泌細胞を作成した初めての報告。糖尿病マウスの腎皮膜下への移植で、血糖値を5か月以上にわたり、200 mg/dl 未満に改善させた。
1型糖尿病患者由来のインスリン分泌細胞は、非糖尿病者由来の細胞と同等のインスリン分泌能を示す。生体外ではサイトカインに対しての障害性も同等であった。

まとめ
1型糖尿病患者あるいは非糖尿病患者の皮膚線維芽細胞から、human induced pluripotent stem cells (hiPSCs) を誘導する。
さらに約27から34日かけてインスリン産生細胞 (stem cell-derived β (SC-β) cells)を作成する。
1型糖尿病患者由来インスリン産生細胞 (T1D-SC-β cells)と非糖尿病患者由来インスリン産生細胞 (ND-SC-β cell)は、20mM (360mg/dl) グルコース刺激で、2 mM (36 mg/dl) グルコース刺激に比べ、それぞれ1.9、2.2倍のインスリンを分泌する。
これらの細胞は、tolbutamide、liragrutide、glucokinase activator によりインスリン分泌が約2倍になる。

アロキサン alloxan はマウスのβ細胞を傷害するがヒトのβ細胞を傷害しない。
T1D-SC-β cells あるいは ND-SC-β cell を immunocompromised mice の腎皮膜下に移植し、12-16週後にアロキサン注射を行った。マウス由来のCペプチドは検知できなくなり、移植を行わないマウスは高血糖で、29日後までに死亡する。
T1D-SC-β cells あるいは ND-SC-β cell を移植したマウスは、空腹時血糖値は200 mg/dlを維持し、移植細胞は5ヶ月以上機能することが示された。

サイトカインストレスカクテル cytokine stress cocktail (IL-β、TNF-α、IFN-γ) を24時間処置した後のCペプチド+、NKx6.1+細胞数は、T1D-SC-β cellsとND-SC-β cellsで有意差を認めない。
Alk inhibitor は、サイトカインストレスからSC-β cellsを保護する。1, 2)

1型糖尿病のドナー3例から細胞を作成している。1型糖尿病のpopulation を全て反映している訳ではなく、個体差の検討が必要。

1. Milan JR. et al. Generation of stem cell-derived β-cells from patients with type 1 diabetes.Nat Commun. 2016 May 10;7:11463. doi: 10.1038/ncomms11463.

2. Blum, B. et al. Reversal of beta cell de-differentiation by a small molecule inhibitor of the TGFbeta pathway. eLife 3, e02809 (2014).


mini-stomach に発現させたインスリン産生細胞は、糖尿病マウスの血糖値を改善させる。

胃前庭部の細胞は、遺伝子操作により生後に膵β細胞へreprograming が可能である。
体外で三次元培養したmini-stomach を大網に移植したマウスでは、糖尿病を発症後、mini-stomach でインスリン産生細胞を誘導させることにより血糖値が改善する。
糖尿病の細胞治療に、胃前庭部細胞が有用であることを示した論文です。

簡約
Neurogenin3、PDX-1、MafAの発現をdoxycyclineにより誘導する遺伝子改変マウスでは、胃前庭部、十二指腸、小腸にインスリン陽性細胞を認める。胃前庭部の細胞は、β細胞に類似した遺伝子発現をしめす。
胃前庭部のインスリン陽性細胞では、グリベンクラミド、Exemdin-4によりインスリンが分泌されるが、十二指腸のインスリン細胞では分泌されない。

遺伝子改変マウスの gastric gland をマトリジェルで三次元培養し、mini-stomach を作成した。
移植のため免疫を低下させたマウスの大網に、min-stomach を移植後に、doxycycline でNeurogenin3、PDX-1、MafAの誘導を行うとインスリン産生細胞が出現する。

移植したマウスにSTZ を投与し糖尿病を誘導すると、血糖値は500mg/dlへ上昇、doxycycline でインスリン産生細胞を誘導することにより、血糖値は200~300 mg/dl へ改善し、移植後は血糖値500mg/dlへ上昇する。

腸管特異的なmaster geneであるCdx2が、胃には発現しないためインスリン細胞への転換が十二指腸より容易であると推察される。

Reprogrammed Stomach Tissue as a Renewable Source of Functional β Cells for Blood Glucose Regulation

Chen YJ et al. De novo formation of insulin-producing “neo-β cell islets" from intestinal crypts. Cell Rep. 2014 Mar 27;6(6):1046-58. doi: 10.1016/j.celrep.2014.02.013. Epub 2014 Mar 6.

 

膵島と同等のインスリン分泌をしめすヒト幹細胞由来β細胞

これまでの幹細胞由来β細胞は、インスリン分泌が少なく、血糖値に応じたインスリン分泌が不完全であった。
Melton らは、この二つの問題点をみごとに克服し、血糖値に応じてヒトの膵島と同等にインスリンを分泌する幹細胞由来β細胞(SC-β細胞)の作成に成功した。
 
分化の最終段階で、いくつかの物質(compound) とその組み合わせを試みている。

分化誘導期間は合計35日。
 
低濃度と高濃度グルコース刺激下の細胞内カルシウム動態もヒト膵島と同様。
 
SC-β細胞は、成熟β細胞のマーカーであるNKx6.1 とC peptide をもつ細胞が主体、C-peptide+グルカゴン、C−ペプチド+ソマトスタチン、PDX-1+ pancreatic progenitor cellもわずかに含まれる。
Oct4 + cell は含まれない。
FACS 解析で、NKx6.1 +C peptide 陽性細胞の比率は、ヒト膵島22%、SC-β細胞38%
 
電子顕微鏡で SC-β細胞では、未成熟なインスリン顆粒と結晶化したインスリン顆粒がみとめられる。
 
immunogold stain で、従来法でつくられた細胞はグルカゴン顆粒も混在しているが、SC-β細胞ではインスリン顆粒のみ。
 
immunocompromised mice に移植後、2週間でヒト膵島と同等なグルコース応答性インスリン分泌を示す。  
糖尿病モデルマウスに移植後、18日後から空腹時血糖改善し126日もグルコース応答性が認められている。
 
1. Felicia W. Pagliuca FW et al. Cell 159, Issue 2, 9 October 2014, Pages 428–439 Generation of Functional Human Pancreatic β Cells In Vitro
http://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674%2814%2901228-8
 
2. For diabetes, stem cell recipe offers new hope
http://news.sciencemag.org/biology/2014/10/diabetes-stem-cell-recipe-offers-new-hope
 
3. Type 1 diabetes cure getting closer
http://diabetes247.org/2014/10/10/type-1-diabetes-cure-close/
 
4. Harvard Breakthrough Grows Insulin-Control Cells in Bulk
http://www.bloomberg.com/news/2014-10-09/harvard-breakthrough-grows-insulin-control-cells-in-bulk.html
 
5. Interview with Harvard Professor Doug Melton
http://diabetes247.org/2014/10/15/interview-professor-doug-melton/
 
Melton教授のインタビュー "The road to the cure is hard. "とも言われています。
 





ヒトES細胞から6週間でインスリン分泌細胞を分化させる方法。

ヒトES細胞から7段階、約6週間でインスリン分泌細胞を分化させる方法。カナダのグループからの報告。従来の分化方法では4ヶ月かかっていた。
 
分化した細胞(S7 insulin-secreting cells) は、グルコース応答性にインスリンを分泌し、糖尿病マウスの血糖値を40日以内に改善させた。
 
1. Faster way to create insulin-producing cells for diabetics (The Economic Times)

2. Rezania A, Bruin JE, Arora P, Rubin A, ,Batushansky I, Asadi A, O'Dwyer S, Quiskamp N, Mojibian M, Albrecht T, Yang YH, Johnson JD, Kieffer TJ. Nat Biotechnol. 2014 Sep 11. Reversal of diabetes with insulin-producing cells derived in vitro from human pluripotent stem cells. 

 

Fbw7の不活化はNgn3をstabilizeし、膵管上皮細胞をα、δ、β細胞に分化させる。

Fbw7が、ubiquitinate にbindし、neurogenin3 (Ngn3)
 の proteosomal degradation に関与している。
Fbw7の不活化はNgn3をstabilizeし、膵管上皮細胞をα、δ、β細胞に分化させる。
 
Sancho R, Gruber R, Gu G, Behrens A. Cell Stem Cell. 2014 Aug 7;15(2):139-53. Loss of Fbw7 Reprograms Adult Pancreatic Ductal Cells into α, δ, and β Cells.


ヒトES細胞、皮膚線維芽細胞から膵内分泌細胞への分化誘導

2013年8月、ヒトES細胞、iPS細胞から4mm 大の脳が形成されたと報告されています。そこでヒトのインスリン分泌細胞への誘導はどの程度すすんでいるか検索してみました。

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プロフィール

N. Ishizuka

Author:N. Ishizuka
糖尿病専門医です。インスリン分泌の基礎研究を経て臨床に戻りました。これまで読んだ論文を臨床に生かしていこうと思い、ブログ形式でまとめています。

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