GLP-1はソマトスタチン分泌を介してグルカゴン分泌を抑制する。

GLP-1受容体作動薬では低血糖が少ないため、GLP-1が低血糖ではグルカゴン分泌を抑制しないという仮説が建てられていた。 予想に反して、マウスの膵臓韓流実験で、GLP-1は低グルコース濃度でもソマトスタチン分泌を促進しグルカゴン分泌を抑制した。

まとめ
GLP-1はグルカゴン分泌を抑制するが、GLP-1受容体作動薬では低血糖は起こりにくい。
インスリン、ソマトスタチンは、グルカゴン分泌を抑制する。
GLP-1が低グルコース濃度で、ソマトスタチン分泌を促進せず、グルカゴン分泌抑制しないという仮説をたてていた。

予想に反し、膵臓灌流実験の低グルコース濃度 (9 mg/dl、27 mg/dl) でも、GLP-1はソマトスタチン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制した。
GLP-1によるグルカゴン分泌抑制は、somatostatin receptor 2 (SSTR2) 阻害薬により解除される。

GLP-1は、インスリン分泌を1.5 mM グルコースでは促進せず、6 mMグルコースで促進する。

ソマトスタチン分泌 somatostatin tone は神経支配を受けている。
膵臓灌流モデルでは神経が切除されるため、ソマトスタチンが低グルコース濃度でも分泌された可能性がある。1) 

Rorsmanらのグループは、GLP-1のα細胞に対する直接作用を報告し、GLP-1のグルカゴン分泌抑制にソマトスタチンは関与しないとしている 。
2, 3)
・α細胞にGLP-1受容体が発現しているが、β細胞の発現量の0.2%程度と少ない。
・グルカゴン分泌はGLP-1で抑制され、アドレナリンで促進される。cAMPのわずかな上昇はグルカゴン分泌を抑制し、大幅な上昇はグルカゴン分泌を促進する。
・膵島をGLP-1で1時間培養後、ソマトスタチン分泌は刺激されず、SSTR2阻害薬は、GLP-1のグルカゴン分泌抑制に影響しない。2)

1) Ørgaard A. Holst JJ. The role of somatostatin in GLP-1-induced inhibition of glucagon secretion in mice. Diabetologia. 2017 May 27.

2) De Marinis YZ et al. GLP-1 inhibits and adrenaline stimulates glucagon release by differential modulation of N- and L-type Ca2+ channel-dependent exocytosis. Cell Metab. 2010 Jun 9;11(6):543-553.

3) Zhang Q et al. Role of KATP channels in glucose-regulated glucagon secretion and impaired counterregulation in type 2 diabetes. Cell Metab. 2013 Dec 3;18(6):871-82.  

食後のグルカゴンの反応は炭水化物の含有量により異なる。

食後のグルカゴンの反応は炭水化物の含有量により異なる。

食事中の炭水化物量が多い場合、インスリンの上昇が大きく、グルカゴンの上昇は小さい。

炭水化物が少なければ、グルカゴン上昇が大きい。グルカゴン上昇により、肝糖産生が上昇し、protein-induced insulin secretion による低血糖を防ぐ1)。

"The response of glucagon during a meal  varies with the amount of carbohydrates consumed.  The greater carbohydrate content, the greater rise of insulin and the smaller rise in glucagon levels; this bihormonal mixture favors the hepatic accumulation of ingested glucose.  If the meal is devoid of carbohydrate, however, a large rise in glucagon secretion occurs and, by enhancing hepatic glucose production, prevents hypoglycemia arising from protein induced insulin secretion.”
  
1) Unger RH, Orci L. Glucagon and the A cell: physiology and pathophysiology (first two parts). N Engl J Med. 1981 Jun 18;304(25):1518-24.

GABAとα細胞

GABA受容体活性化により、β細胞でクロライドが流出、α細胞でクロライドが流入する。
TypeA GABA受容体 (GABAAR) は、α細胞、β細胞ともに発現している。
他のクロライド流入型 (chloride-intruding)、クロライド排出型 (chloride-extruding)トランスポーターの発現の違いから、細胞内クロライド濃度は、β細胞で高く、α細胞では低い。
GABAARの活性化により、β細胞でクロライドが流出し、細胞膜の脱分極によりカルシウムが流入、インスリン分泌が促進される。
α細胞では、GABAARの活性化により、クロライドが流入し、膜の過分極によりカルシウム流入が抑制され、グルカゴン分泌が低下する。1)

インスリンはGABAARのトランスロケーションを介してグルカゴン分泌を抑制する。
インスリンは、α細胞で、インスリン受容体を介してAktを活性化し、GABAAR を細胞膜にトランスロケーションさせる。インスリンはGABAAR 活性化によりグルカゴン分泌を抑制する。2)

1型糖尿病モデルマウスでは、GABAシグナルが低下、mTORが活性化するため、α細胞が増殖する。
STZ処置したマウスのβ細胞で、GADとGABARの発現が低下、α細胞ではGABARの発現は低下しない。
β細胞から分泌されるGABAが低下するため、GABA受容体を介したCl-の流入が減少、Ca2+の流入が増加、mTORが活性化し、α細胞が増殖する。
STZ処置マウスへのGABA投与は、α細胞の細胞質内カルシウム濃度とp-mTOR 活性を低下させ、STZ処置後のα細胞の増殖を抑制する。

1) Feng Alte al. Paracrine GABA and insulin regulate pancreatic alpha cell proliferation in a mouse model of type 1 diabetes Diabetologia. 2017 Jun;60(6):1033-1042. doi: 10.1007/s00125-017-4239-x. 

2) Xu E, Kumar M, Zhang Y, Ju W, Obata T, Zhang N, Liu S, Wendt A, Deng S, Ebina Y, Wheeler MB, Braun M, Wang Q. Intra-islet insulin suppresses glucagon release via GABA-GABAA receptor system.Cell Metab. 2006 Jan;3(1):47-58.


グルカゴンとアミノ酸代謝

グルカゴン過剰分泌ではアミノ酸が低下する
グルカゴノーマではアミノ酸の代謝および尿素合成が亢進している。
血中アミノ酸低下が皮膚所見の原因となる。アミノ酸投与により皮膚所見が改善する。

グルカゴンシグナリング異常では血中アミノ酸が上昇する
グルカゴン受容体の不活化では血中アミノ酸が上昇し、その結果としてα細胞過形成とグルカゴンの過分泌が認められる。

長時間の飢餓では、血中グルカゴンが上昇、筋肉からアラニン alanine が放出される。
アラニンは、肝臓でalanine transferase によりピルビン酸に変換されグルコースとなる。(glucose-alanine cycle)
グルカゴンは alanine transferase を制御している。

Holst JJ et al. Glucagon and Amino Acids Are Linked in a Mutual Feedback Cycle: The Liver-α-Cell Axis. Diabetes. 2017 Feb;66(2):235-240. doi: 10.2337/db16-0994.

完全なインスリン欠乏状態は、グルカゴン受容体の不活化で改善されない。

グルカゴン受容体を発現しないマウスで、streptozotocin を投与し、β細胞を減少させても糖尿病を発症しない。しかし、インスリンとグルカゴン受容体を発現しないマウスで、血糖値は改善するが、生存期間は延びない。

まとめ
インスリンとグルカゴン受容体をともに欠失したマウス(GcgrKO/InsKO)では、インスリン欠失、グルカゴン受容体ヘテロ欠損マウス(GcgrHet/InsKO)に比べ、血糖値とケトン体値は改善するが、生存期間は6日間で同等であった。

レプチン値、中性脂肪、脂肪酸、肝臓のコレステロール蓄積を正常化することはなかった。

インスリンの完全な欠乏状態は、グルカゴン受容体の不活化によって回復されることはない

Neumann UH, et al. Glucagon receptor gene deletion in insulin knockout mice modestly reduces blood glucose and ketones but does not promote survival. Mol Metab. 2016.

グルカゴンは中枢性に食欲を抑制し、肝糖放出を減少させる。

動物でグルカゴンの脳室内投与により食欲が抑制される。

内側基底視床下部 (mediobasal hypothalamus (MBH)) 、迷走神経背側核 (dorsal vagal complex (DVC)) へのグルカゴン注入は、肝糖放出を抑制する。グルカゴン受容体、PKA シグナリング、KATP channel を介している。

高タンパク食では低タンパク食に比べ、血中グルカゴン値が上昇するにもかかわらず、食後血糖値が増加しにくい。
DVCでグルカゴンシグナルをブロックすると、高タンパク食での食後血糖抑制が消失する。
インスリン、GLP-1、レプチンも、DVCを介して、血糖値と食行動を制御している。

Abraham MA, Lam TK. Glucagon action in the brain. Diabetologia. 2016 Jul;59(7):1367-71.

LaPierre MP, Abraham MA, Yue JT, Filippi BM, Lam TK. Glucagon signalling in the dorsal vagal complex is sufficient and necessary for high-protein feeding to regulate glucose homeostasis in vivo. EMBO Rep. 2015Oct;16(10):1299-307.


GLP-1、GIP、グルカゴンのtriple agonist の血糖値改善と体重減少効果

グルカゴン受容体拮抗薬 LY240902 のphase 2 スタディ

 グルカゴン受容体拮抗薬 LY2409021 Phase 2a 、2b studyの結果、LY2409021は、プラセボに比べA1Cを低下させた。基準値に対し3倍以上の alanine aminotransferase (ALT) 値上昇が、それぞれ 4/85、8 /191 に認められた。

グルカゴン受容体拮抗薬のまとめ
グルカゴン受容体欠損マウスでは、血中グルカゴン、GLP-1、FGF21が上昇することが知られている。LY240902投与で、血中グルカゴンとGLP-1の上昇が認められた。グルカゴン受容体ブロックに対するフィードバックとして、α細胞でグルカゴンとGLP-1が産生されていると推測され、グルカゴンのクリアランスが低下している可能性もある。今回のスタディで、空腹時活性型GLP-1は増加していないため、血糖降下作用にGLP-1は関与していない。LY2409021投与中止により、グルカゴン値は正常化する。

LY2409021により基準値3倍を超えるトランスアミナーゼの上昇を認めた患者では、ビリルビン、ALPは正常で、FDAの基準範囲内。(FDAのガイドラインで、 liver injury は、ビリルビン、ALPで基準値の2倍以上の上昇を伴った AST/ALTで基準値の3倍以上とされている。)

glycogen storage disease では、トランスアミナーゼの上昇が認められる。
LY2409021では、げっ歯類で肝臓のグリコーゲン量は変化なし。
LY2409021投与12週間で、MRIにより、肝臓の脂肪蓄積を評価するスタディが始まっている。

今回の治験で、重症低血糖は認められない。グルカゴン受容体拮抗薬中の低血糖は、グルカゴン投与により改善する。

1型糖尿病に対するグルカゴン受容体拮抗薬投与はインスリン必要量を減らすという報告がある。

Clinical Trials, Triumphs, and Tribulations of Glucagon Receptor Antagonists. Diabetes Care 2016 Jul; 39(7): 1075-1077 

Evaluation of Efficacy and Safety of the Glucagon Receptor Antagonist LY2409021 in Patients With Type 2 Diabetes: 12- and 24-Week Phase 2 Studies. Diabetes Care 2016 Jul; 39(7): 1241-1249. 

Omar BA et al. Fibroblast Growth Factor 21 (FGF21) and Glucagon-Like Peptide 1 Contribute to Diabetes Resistance in Glucagon Receptor–Deficient Mice Diabetes. 2014 Jan;63(1):101-10. doi: 10.2337/db13-0710. Epub 2013 Sep 23.

グルカゴンの生理作用 (2)

 ・インスリン、GABA、レプチン (leptin) は、グルカゴン分泌を抑制 する。insulin のParacrine 濃度は、2000-4000 μU/ml
・中枢神経系からも制御される。

グルカゴンはグルカゴン受容体を介して細胞内 cAMP濃度を上昇させ、Protein kinase A (PKA) を活性化する。
PKAは、糖新生に重要な glucose-6-phosphate、PEPCK の発現を増加させ、糖新生へ誘導する。
さらに、PKA は、cAMP-Responsive Element Binding Protein (CREBP)、peroxisome proliferator–activated receptor γ coactivator (PGC)1aを活性化する。
Salt-inducible kinase (SIK) 2 はPKAにより活性化される。SIK2 は、CREBP-regulated transcription coactivator 2 (CRTC2) をリン酸化し活性化する。

Pearson MJ, Roger H. Unger RH, Holland WL. Clinical Trials, Triumphs, and Tribulations of Glucagon Receptor Antagonists Diabetes Care 2016 Jul; 39(7): 1075-1077

Maruyama H, Hisatomi A, Orci L, Grodsky GM, Unger RH. Insulin within islets is a physiologic glucagon release inhibitor. J Clin Invest. 1984 Dec;74(6):2296-9.

膵全摘患者における腸管グルカゴンの分泌

膵全摘後も糖負荷試験で、腸管よりグルカゴンが分泌され、内因性グルコース産生が増加する。
腸管のグルカゴンが、膵摘出後の食後高血糖の原因となる。

まとめ
膵全摘を行った10人と正常耐糖能10人で、糖負荷試験、正常血糖グルコース注入 (isoglycemic intravenous glucose infusion, IIGI) を行った。新規サンドイッチELISA法、High-performance liquid chromatography (HPLC) 、mass spectrometry–based proteomics でグルカゴンを測定した。
膵全摘症例で、インスリン、PPは分泌されないが、グルカゴンが分泌される。
IIGIで、グルカゴン分泌は認められず腸管特有の現象 (gut-dependent phenomenon)
内因性グルコース産生は増加しており、腸管由来グルカゴンが、膵切除後患者の食後高血糖に関与している。

グルカゴン受容体の変異のあるヒトやマウスで、高グルカゴン血症とα-cell hyperplasia が認められる
膵切除後患者では空腹時のGLP-1、oxyntomodulin が増加している。
膵切除によるグルカゴンシグナル低下に反応して腸管で プログルカゴン発現細胞が増加している可能性もある。
L細胞が腸管グルカゴン産生の候補で、L細胞特異的にPC2の発現が上昇している可能性があるかもしれない。

Lund A et al. Evidence of Extrapancreatic Glucagon Secretion in Man. Diabetes. 2016 Mar;65(3):585-97

Zhou C, Dhall D, Nissen NN, Chen C-R, Yu R. Homozygous P86S mutation of the human glucagon receptor is associated with hyperglucagonemia, alpha cell hyperplasia, and islet cell tumor. Pancreas 2009;38:941–946
60歳女性、膵腫瘍、高グルカゴン血症あり、膵腫瘍切除後も高グルカゴン血症が持続した。グルカゴン受容体のhomozygous missense mutation が認められた。

Gelling RW, Du XQ, Dichmann DS, et al. Lower blood glucose, hyper- glucagonemia, and pancreatic alpha cell hyperplasia in glucagon receptor knockout mice. Proc Natl Acad Sci USA 2003;100:1438–1443

Sandoval DA, D’Alessio DA Physiology of proglucagon peptides: role of glucagon and GLP-1 in health and disease. Physiol Rev 2015;95:513–548


プロフィール

N. Ishizuka

Author:N. Ishizuka
糖尿病専門医です。インスリン分泌の基礎研究を経て臨床に戻りました。これまで読んだ論文を臨床に生かしていこうと思い、ブログ形式でまとめています。

最新記事
カテゴリ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
57位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
自然科学
10位
アクセスランキングを見る>>
検索フォーム