中枢性のグルカゴン分泌制御

AMPK
視床下部視床下部腹内側核 (ventromedial hypothalamus, VMH) のAMP-activated protein kinase (AMPK) 活性化は、急性低血糖時のエピネフェリン、グルカゴンの反応を増強する。コルチゾール corticostrone の反応に影響しない。
VMHに発現するAMPKは、低血糖を検知し、counterregulatory response に重要な役割をはたしている。

Fgf15
2-deoxyglucose (2-DG) は自律神経を介してインスリン分泌を促進し、神経性低血糖 neuroglycopenia となりグルカゴン分泌を誘発する。2-DG を用いた視床のスクリーニングにより、Fgf15が見出された。
Fgf15 は、視床下部背内側部 (dorsomedial hypothalamus)、視床下部脳弓周囲野(perifornical area)に発現する。
Fgf15の脳室内投与はneuroglycopenia による迷走神経の活性化とグルカゴン分泌を抑制し、Fgf15のsilencing は血中グルカゴン分泌を促進する

McCrimmon RJ et al. Key role for AMP-activated protein kinase in the ventromedial hypothalamus in regulating counterregulatory hormone responses to acute hypoglycemia. Diabetes. 2008 Feb;57(2):444-50. Epub 2007 Oct 31.

Picard A et al. A Genetic Screen Identifies Hypothalamic Fgf15 as a Regulator of Glucagon Secretion Cell Rep. 2016 Nov 8;17(7):1795-1806.
 

グルカゴンは乳酸よりもグルタミンからの糖新生を増強する。

 グルカゴンは乳酸よりもグルタミンからの糖新生を増強する。

グルタミンは、グルタミン酸をへて、α-ケト酸に代謝され糖新生の材料となる。
グルカゴンは肝臓で乳酸経由よりもグルタミン分解経由の糖新生を増強する。

グルカゴンは、protein kinase Aの活性化およびそれに伴うendoplasmic reticulum からのカルシウム放出により
ミトコンドリアのα- ketoglutarate dehydrogenaseを活性化する。

グルタミン代謝の第1弾段階の酵素であるGlutaminase 2 (GLS2)のノックアウトマウスでは、空腹時のグルカゴンとグルタミンのレベルが高く、インスリン抵抗性の条件でも、空腹時血糖値が低い。

GWASの結果、GLS2のLeu581がproline に置換された polymorphismでは、空腹時血糖が高く血中グルタミン値が低い。このpolymorphismは、gain-of-function mutation である。

Miller RA et al. Targeting hepatic glutaminase activity to ameliorate hyperglycemia. Nat Med. 2018 Mar 26.

1型糖尿病のグルカゴン分泌不全

1型糖尿病で、低血糖時のグルカゴン反応が不十分で、食事に反応したグルカゴン反応が不適当 Inappropriate である。その原因として以下が挙げられている。

神経系でグルコース濃度検知不全 (Defects in neural glucose sensing)
膵島の交感神経の減少 (Impaired islet innervation)
膵島内インスリン欠乏 (Intra-islet insulin deficiency)
α細胞の機能不全 ( Intrinsic α cell defects)

Brissova M et al. α Cell Function and Gene Expression Are Compromised in Type 1 Diabetes. Cell Rep. 2018 Mar 6;22(10):2667-2676
1型糖尿病のα細胞で MAFB、ARX、RFX6やカルシウムチャネルの転写が低下している。膵島のグルカゴン陽性細胞はコントロールに比べ増加している。グルカゴン含量で補正したグルカゴン分泌は、グルコース300mg/dl 30分後、グルコース100 mg/dl で、コントロールに比べ反応が少ない。

Mundinger TO et al. Human Type 1 Diabetes Is Characterized by an Early, Marked, Sustained, and Islet-Selective Loss of Sympathetic Nerves. Diabetes. 2016 Aug;65(8):2322-30.
1型糖尿病の膵島で、交感神経の喪失が認められるが、2型糖尿病では認められない。
膵島での交感神経の喪失が1型糖尿病でインスリンによる低血糖の原因の一つである。

1型糖尿病のα細胞機能と遺伝子発現

ヒト1型糖尿病α細胞では、α細胞に特異的な転写因子、L型およびP/Q型カルシウムチャネルの発現が低下していた。グルカゴン陽性細胞が多いが、グルカゴン含量あたりのグルカゴン分泌反応は正常と異なる。α細胞の機能低下が1型糖尿病のグルカゴン分泌異常の原因であるかもしれない。

まとめ
ヒト1型糖尿病の膵島ではグルカゴン陽性細胞がコントロールに比べ~2倍増加している。
グルコース300mg/dl 30分後、グルコース100 mg/dl で、グルカゴン含量で補正した膵島のグルカゴン分泌はコントロールに比べ反応が少ない。

α細胞では、α細胞に特異的的なMAFB、ARX遺伝子発現は低下、通常β細胞に発現するNKX6.1遺伝子発現が増加していた。転写因子RFX6やカルシウムチャネルの転写も低下している。
RFX6はβ細胞でL型およびP/Q型カルシウムチャネル(CACNA1A、CACNA1C、CACNA1D)、KATP channel のサブユニットである sulfonylurea receptor 1 (ABCC8) の発現を制御している。 転写因子の発現低下によりグルカゴン分泌に関わる分子が抑制され、グルカゴン分泌が生じている可能性がある、

ヒト1型糖尿病の膵島で残存したβ細胞の機能は保たれている。
β細胞でPDX-1、NKX6.1、NKX2.1の発現はコントロールと同等、MAFAは低下している。
インスリン含量で補正したグルコースに対するインスリン分泌能は正常者と同等であった。

α細胞にNkx6.1 が発現していたことから、α-to-β conversion 検討するため、1型糖尿病患者の膵島を免疫不全マウスに移植した。移植後1カ月後、GLP-1アナログを注射しβ細胞の成熟と増殖を促したがヒトインスリンは検出できず。
ARX陽性細胞は増加、Nkx6.1陽性細胞は減少、Non-autoimmune environment では、α細胞のアイデンティティが回復された。ヒトの膵島で、α-to-β conversion は very rare event である。

1型糖尿病で、低血糖時のグルカゴン反応が不十分で、食事に反応したグルカゴン反応が不適当 Inappropriate である。α細胞機能障害 (intrinsic α cell defect)も原因の一つかもしれない。

Brissova M et al. α Cell Function and Gene Expression Are Compromised in Type 1 Diabetes. Cell Rep. 2018 Mar 6;22(10):‪2667-2676‬

Chandra V et al. RFX6 regulates insulin secretion by modulating Ca2+ homeostasis in human β cells. Cell Rep. 2014 Dec 24;9(6):2206-18
RFX6 は、ヒトのβ細胞でインスリン遺伝子発現とインスリン含量および分泌を制御している。
RFX6 knockdown したヒトβ細胞ではでは、P/Q calcium channel (CACNA1A)、L-type calcium channel (CACNA1C、CACNA1D) の発現が低下し、カルシウムホメオスタシスや電気的活性化が障害される。さらにグルコキナーゼ、SUR1 (ABCC1)遺伝子の発現も低下していた。

 

α細胞のグルコキナーゼはグルカゴン分泌を制御する。

低血糖時のグルカゴン分泌は主に自律神経が関与する。
α細胞自身においてもグルカゴン分泌制御機構が存在している。

グルコースによるグルカゴン分泌抑制
グルコースによる ATP/ADP ratio 上昇
ATP-regulated K (
KATPchannel の閉鎖
膜の脱分極
Voltage-gated Na+ channel の不活化
活動電位発火 action potential firing の抑制
カルシウム流入を担うP/Q Ca2+ channel 活性の低下

α細胞のグルコキナーゼは正常血糖、高血糖でのグルカゴン分泌抑制を担っている。
α細胞特異的にグルコキナーゼをノックアウトしたマウスで、食餌後のグルカゴン値が高く、肝臓でPEPCK、G6Pの遺伝子発現が上昇し肝糖産生が増加している。
α細胞では通常、グルコース1mMに比較しグルコース 6mMでは、ATP/ADP 比が上昇、活動電位のピークが減少し、グルカゴン分泌が抑制される。
このマウスのα細胞ではATP/ADP 比の上昇が抑制され、活動電位のピークが低下せず、グルカゴン抑制が認められない。

トルブタミドは、グルコース濃度やATP/ADP比の変化と独立してKATP channel を閉鎖させる。
コントロール、ノックアウトマウスともグルコース1mMでトルブタミドによるグルカゴン分泌抑制が認められる。

Basco D et al. α-cell glucokinase suppresses glucose-regulated glucagon secretion. Nat Commun. 2018 Feb 7;9(1):546.

Rorsman P1, Ramracheya R, Rorsman NJ, Zhang Q. ATP-regulated potassium channels and voltage-gated calcium channels in pancreatic alpha and beta cells: similar functions but reciprocal effects on secretion. Diabetologia. 2014 Sep;57(9):1749-61.

GLP-1はソマトスタチン分泌を介してグルカゴン分泌を抑制する。

GLP-1受容体作動薬では低血糖が少ないため、GLP-1が低血糖ではグルカゴン分泌を抑制しないという仮説が建てられていた。 予想に反して、マウスの膵臓韓流実験で、GLP-1は低グルコース濃度でもソマトスタチン分泌を促進しグルカゴン分泌を抑制した。

まとめ
GLP-1はグルカゴン分泌を抑制するが、GLP-1受容体作動薬では低血糖は起こりにくい。
インスリン、ソマトスタチンは、グルカゴン分泌を抑制する。
GLP-1が低グルコース濃度で、ソマトスタチン分泌を促進せず、グルカゴン分泌抑制しないという仮説をたてていた。

予想に反し、膵臓灌流実験の低グルコース濃度 (9 mg/dl、27 mg/dl) でも、GLP-1はソマトスタチン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制した。
GLP-1によるグルカゴン分泌抑制は、somatostatin receptor 2 (SSTR2) 阻害薬により解除される。

GLP-1は、インスリン分泌を1.5 mM グルコースでは促進せず、6 mMグルコースで促進する。

ソマトスタチン分泌 somatostatin tone は神経支配を受けている。
膵臓灌流モデルでは神経が切除されるため、ソマトスタチンが低グルコース濃度でも分泌された可能性がある。1) 

Rorsmanらのグループは、GLP-1のα細胞に対する直接作用を報告し、GLP-1のグルカゴン分泌抑制にソマトスタチンは関与しないとしている 。
2, 3)
・α細胞にGLP-1受容体が発現しているが、β細胞の発現量の0.2%程度と少ない。
・グルカゴン分泌はGLP-1で抑制され、アドレナリンで促進される。cAMPのわずかな上昇はグルカゴン分泌を抑制し、大幅な上昇はグルカゴン分泌を促進する。
・膵島をGLP-1で1時間培養後、ソマトスタチン分泌は刺激されず、SSTR2阻害薬は、GLP-1のグルカゴン分泌抑制に影響しない。2)

1) Ørgaard A. Holst JJ. The role of somatostatin in GLP-1-induced inhibition of glucagon secretion in mice. Diabetologia. 2017 May 27.

2) De Marinis YZ et al. GLP-1 inhibits and adrenaline stimulates glucagon release by differential modulation of N- and L-type Ca2+ channel-dependent exocytosis. Cell Metab. 2010 Jun 9;11(6):543-553.

3) Zhang Q et al. Role of KATP channels in glucose-regulated glucagon secretion and impaired counterregulation in type 2 diabetes. Cell Metab. 2013 Dec 3;18(6):871-82.  

食後のグルカゴンの反応は炭水化物の含有量により異なる。

食後のグルカゴンの反応は炭水化物の含有量により異なる。

食事中の炭水化物量が多い場合、インスリンの上昇が大きく、グルカゴンの上昇は小さい。

炭水化物が少なければ、グルカゴン上昇が大きい。グルカゴン上昇により、肝糖産生が上昇し、protein-induced insulin secretion による低血糖を防ぐ1)。

"The response of glucagon during a meal  varies with the amount of carbohydrates consumed.  The greater carbohydrate content, the greater rise of insulin and the smaller rise in glucagon levels; this bihormonal mixture favors the hepatic accumulation of ingested glucose.  If the meal is devoid of carbohydrate, however, a large rise in glucagon secretion occurs and, by enhancing hepatic glucose production, prevents hypoglycemia arising from protein induced insulin secretion.”
  
1) Unger RH, Orci L. Glucagon and the A cell: physiology and pathophysiology (first two parts). N Engl J Med. 1981 Jun 18;304(25):1518-24.

GABAとα細胞

GABA受容体活性化により、β細胞でクロライドが流出、α細胞でクロライドが流入する。
TypeA GABA受容体 (GABAAR) は、α細胞、β細胞ともに発現している。
他のクロライド流入型 (chloride-intruding)、クロライド排出型 (chloride-extruding)トランスポーターの発現の違いから、細胞内クロライド濃度は、β細胞で高く、α細胞では低い。
GABAARの活性化により、β細胞でクロライドが流出し、細胞膜の脱分極によりカルシウムが流入、インスリン分泌が促進される。
α細胞では、GABAARの活性化により、クロライドが流入し、膜の過分極によりカルシウム流入が抑制され、グルカゴン分泌が低下する。1)

インスリンはGABAARのトランスロケーションを介してグルカゴン分泌を抑制する。
インスリンは、α細胞で、インスリン受容体を介してAktを活性化し、GABAAR を細胞膜にトランスロケーションさせる。インスリンはGABAAR 活性化によりグルカゴン分泌を抑制する。2)

1型糖尿病モデルマウスでは、GABAシグナルが低下、mTORが活性化するため、α細胞が増殖する。
STZ処置したマウスのβ細胞で、GADとGABARの発現が低下、α細胞ではGABARの発現は低下しない。
β細胞から分泌されるGABAが低下するため、GABA受容体を介したCl-の流入が減少、Ca2+の流入が増加、mTORが活性化し、α細胞が増殖する。
STZ処置マウスへのGABA投与は、α細胞の細胞質内カルシウム濃度とp-mTOR 活性を低下させ、STZ処置後のα細胞の増殖を抑制する。

1) Feng Alte al. Paracrine GABA and insulin regulate pancreatic alpha cell proliferation in a mouse model of type 1 diabetes Diabetologia. 2017 Jun;60(6):1033-1042. doi: 10.1007/s00125-017-4239-x. 

2) Xu E, Kumar M, Zhang Y, Ju W, Obata T, Zhang N, Liu S, Wendt A, Deng S, Ebina Y, Wheeler MB, Braun M, Wang Q. Intra-islet insulin suppresses glucagon release via GABA-GABAA receptor system.Cell Metab. 2006 Jan;3(1):47-58.


グルカゴンとアミノ酸代謝

グルカゴン過剰分泌ではアミノ酸が低下する
グルカゴノーマではアミノ酸の代謝および尿素合成が亢進している。
血中アミノ酸低下が皮膚所見の原因となる。アミノ酸投与により皮膚所見が改善する。

グルカゴンシグナリング異常では血中アミノ酸が上昇する
グルカゴン受容体の不活化では血中アミノ酸が上昇し、その結果としてα細胞過形成とグルカゴンの過分泌が認められる。

長時間の飢餓では、血中グルカゴンが上昇、筋肉からアラニン alanine が放出される。
アラニンは、肝臓でalanine transferase によりピルビン酸に変換されグルコースとなる。(glucose-alanine cycle)
グルカゴンは alanine transferase を制御している。

Holst JJ et al. Glucagon and Amino Acids Are Linked in a Mutual Feedback Cycle: The Liver-α-Cell Axis. Diabetes. 2017 Feb;66(2):235-240. doi: 10.2337/db16-0994.

プロフィール

N. Ishizuka

Author:N. Ishizuka
糖尿病専門医です。インスリン分泌の基礎研究を経て臨床に戻りました。これまで読んだ論文を臨床に生かしていこうと思い、ブログ形式でまとめています。

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