メトフォルミンは男性で冠動脈石灰化を抑制する。

 Diabetes Prevention Program (DPP)、DPP Outcome Study (DPPOS) の参加者のうち、メトフォルミンを服用した男性では、プラセボに比べ、冠動脈石灰化の重症度が有意に低下していた。女性ではこの効果は認められなかった。

Effect of Long-term Metformin and Lifestyle in the Diabetes Prevention Program and its Outcome Study on Coronary Artery Calcium
http://circ.ahajournals.org/content/early/2017/05/05/CIRCULATIONAHA.116.025483


メトフォルミンによるAMPの低下はcAMP-PKA シグナリングを抑制する。

メトフォルミンは、ミトコンドリアのcomplex1を抑制するため、細胞内AMPが上昇する。

細胞内AMPの上昇は、Adenylyate cyclase を抑制する。その結果、ATPからcAMP産生が低下し、protein kinase A (PKA) 活性が抑制される。
PKA活性抑制により、糖新生に関連する遺伝子の転写活性が低下し、糖新生の酵素である fructose-1,6-bisphosphatase (FBPase) が阻害される。

AMPの上昇は、AMP-activated protein kinase (AMPK)を活性化する。

Florez JC. Pharmacogenetics in type 2 diabetes: precision medicine or discovery tool? Diabetologia. 2017 May;60(5):800-807.

わかりやすい図があります

Miller RA, Chu Q, Xie J, Foretz M, Viollet B, Birnbaum MJ. Biguanides suppress hepatic glucagon signalling by decreasing production of cyclic AMP. Nature. 2013 Feb 14;494(7436):256-60. 
メトフォルミンはグルカゴンによる糖放出を抑制する。

メトフォルミンは胆汁酸の再吸収抑制を介してGLP-1分泌を促進する

胆汁酸は、L細胞に発現するTgr5を介してGLP-1分泌を促進する。1)
メトフォルミンは、Farnesoid X receptor を介して、AMPK-mediated mechanismで、胆汁酸再吸収を抑制し、GLP-1分泌を促進する。2)

1. van Nierop FS et al. Clinical relevance of the bile acid receptor TGR5 in metabolism. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017 Mar;5(3):224-233. doi: 10.1016/S2213-8587(16)30155-3. Epub 2016 Sep 14.
“Stimulation of Tgf5 on the basolateral side of L cells has been suggested as an important mediator of bile acid-induced GLP-1 secretion.”

2. McCreight LJ, Bailey CJ, Pearson ER. Metformin and the gastrointestinal tract. Diabetologia First online: 16 January 2016

メトフォルミン不耐性とOCT1、SERT

 メフォルミンの消化器症状は、腸管でのメトフォルミンの濃度上昇、メフォルミンによるセロトニンの取り込み抑制などが原因とされている。

メトフォルミン不耐性164人とメトフォルミン服用可能な1356人の比較で、Organic transporter 1(OCT1) 機能低下型アリルを2つ持つ場合、メトフォルミン不耐性のオッズ比 2.7となる

メトフォルミンは、Serotonin reuptake transporter (SERT) を介してセロトニンの取り込みを抑制する。
SERT遺伝子はLong (L) allele、Short (S) alleleがあり、S allele ではSERT 発現が低下する。
single nucleotide polymorphism (SNP) rs 25531 A>G は、SERT発現を調節している。LGはLAに比べSERT発現が低下する。
S alleleでは、メトフォルミン不耐性のオッズ比1.3
L*L*(LALA) で、OCT-1機能低下型アリルを2つ持つ場合、メトフォルミン不耐性オッズ比は9.25となる。
L*S* (LALG, LAS)では影響が少なく、 S*S* (SS, SLG, LGLG) では影響しない。
OCT-1機能低下型アリルを2つ持つ場合、S alleleは逆にメトフォルミン不耐性に対して保護的効果を示す。
S alleleでは、セロトニン濃度が上昇するため、受容体の感度低下(desensitization) が起こるためと考えられる。

腸管のメトフォルミンの取り込みでOCT-1が主要な役割を果たしているため、OCT-1の機能低下がメトフォルミン不耐性のリクス上昇が大きいと推測される。

Dujic T et al. Effect of Serotonin Transporter 5-HTTLPR Polymorphism on Gastrointestinal Intolerance to Metformin: A GoDARTS Study. Diabetes Care. 2016 Nov;39(11):1896-1901. Epub 2016 Aug 4.

メトフォルミンの服用では血中シトルリンが低下する。

メトフォルミン服用者では、血中シトルリンが低下している。
脂肪細胞、筋肉においてもシトルリンが低下しているが、肝臓では低下していない。
シトルリンは尿素サイクルとNOサイクルに関わっている。(Arginine→Citrulline + NO)
メトフォルミンの糖尿病、心血管疾患、がんに対する多面的効果は、尿素合成やNO産生を介している可能性がある。

Metformin Effect on Non-Targeted Metabolite Profiles in Patients with Type 2 Diabetes and Multiple Murine Tissues Diabetes. 2016 Dec;65(12):‪3776-3785‬.


Irving BA, Spielmann G. Does Citrulline Sit at the Nexus of Metformin’s Pleotropic Effects on Metabolism and Mediate Its Salutatory Effects in Individuals With Type 2 Diabetes? Diabetes. 2016 Dec;65(12):‪3537-3540‬.

メトフォルミンと腸内細菌

メトフォルミン服用で、ムチンを分解する Akkermansia muciniphila、短鎖脂肪酸 (short-chain fatty acid, SCFA) を産生するButyrivibrio, Bifidobacterium bifidum, Megasphaera が増加している。1)

A. muciniphila は、腸管バリア機能を改善する。
A. muciniphila の外膜から分離された Amun_1100 は、高脂肪食で上昇した門脈の lipopolysaccharide 濃度を通常食レベルに低下させる。
Amun_1100、パスツール化されたA. mucinphila は、高脂肪食でインスリン抵抗性を改善する。2)

短鎖脂肪酸は、腸管の糖新生を生じ、肝糖産生を低下させる。
酢酸は、Blood Brain Barrier を透過し、視床下部に直接的作用し食欲を抑制する。

1. Metformin Is Associated With Higher Relative Abundance of Mucin-Degrading Akkermansia muciniphila and Several Short-Chain Fatty Acid–Producing Microbiota in the Gut. Diabetes Care 2016

2. A purified membrane protein from Akkermansia muciniphila or the pasteurized bacterium improves metabolism in obese and diabetic mice. Nature Medicine (2016)

3. Everard A, et al. Cross-talk between Akkermansia muciniphila and intestinal epithelium controls diet-induced obesity. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013.

4. Shin NR, Lee JC, Lee HY et al. An increase in the Akkermansia spp. population induced by metformin treatment improves glucose homeostasis in diet-induced obese mice. Gut 2014 63: 727–735

5. De Vadder F et al. Microbiota-generated metabolites promote metabolic benefits via gut-brain neural circuits. Cell. 2014 Jan 16;156(1-2):84-96. doi: 10.1016/j.cell.2013.12.016. Epub 2014 ‪Jan 9.‬ ‬

6. Frost G et al. The short-chain fatty acid acetate reduces appetite via a central homeostatic mechanism Nat Commun. 2014 Apr 29;5:3611.


7. 腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸は腸管の糖新生を生じ、肝糖産生を低下させる。

メトフォルミンと多嚢胞性卵巣症候群 (Polycystic ovarian syndrome, PCOS) 2

多嚢胞性卵巣症候群 (Polycystic ovarian syndrome, PCOS) では、高インスリン血症がいくつかの経路で高アンドロゲン血症を誘発する。
'Hyperinsulinemia contributes to hyperandrogenemia in several ways.'

メトフォルミンは高インスリン血症を改善し、血中テストステロン値を20-25%低下させる。PCOSの多毛症 hirsutism を改善させない。

メトフォルミンは、排卵機能を改善させるかもしれない。ランダマイズドプラセボコントロールのメタアナリシスで、メトフォルミンは妊娠率を上げるが、live birth rateは上げない。
メトフォルミンは無排卵性不妊 anovulatory infertility のファーストライン薬ではない。
メトフォルミンは、耐糖能異常、2型糖尿病のあるPCOSでライフスタイル介入に十分反応しない症例に用いる。
経口避妊薬は、gonadotropin 分泌を抑制する。

PCOSでは、糖負荷試験を1から5年に1回チェックする。

McCartney CR, Marshall JC. CLINICAL PRACTICE. Polycystic Ovary Syndrome.N Engl J Med. 2016 Jul 7;375(1):54-64.

メトフォルミンと下痢

メトフォルミンのレビューです。こちらのレビューでは、メトフォルミンで下痢が起こる理由として
・乳酸の上昇
・胆汁酸の吸収低下 malabsorption によるGLP-1分泌促進
・セロトニン 増加
をあげています。

まとめ
メトフフォルミンは主に小腸で吸収される。空腸の薬剤濃度ピークは、500 μg/g で、血中の30-300倍になる。
メトフォルミンが基質となるトランスポーター
Organic cation transporter (OCT)1-3、Plasma monoamine transporter (PMAT)、Serotonin transporter (SERT)、Multidrug and toxin extrusion protein (MATE) 1-2、High-affinity choline transporter (CHT)

・メトフォルミンは、腸管のグルコース取り込みを上昇させ、乳酸を増加させる。
ラットの肝細胞で、メトフォルミンは、ミトコンドリアのglyceroaldehyde dehydrogenase を阻害し、乳酸からピルビン酸への変換を抑制する。(Madiraju AK, Nature 2014)
PET-CTで腸管の18F-fluorodeoxyglucose の取り込みがびまん性 (diffuse) に亢進している。

・メトフォルミンはin vivo でDPP4活性を低下させる。In vitro study でDPP4活性低下のメカニズムは明らかになっていない。

・Bile acid pool を増やすことが GLP-1分泌、コレスレロール値、腸内細菌に影響しているかもしれない。
メトフォルミンが、farnesoid X receptor (FXR) を介してAMPK-mediated mechanism により胆汁酸再吸収を阻害する。
胆汁酸プールの増加は、L細胞のTGR5 bile acid receptor を介してGLP-1分泌を刺激する。

・メトフォルミンがセロトニン分泌を促進、吐き気、下痢の原因となる。
メトフォルミンは5HT3受容体作動薬と一部の構造が類似している。
セロトニン上昇は、直接作用ではなく、メトフォルミンが、OCT-1やセロトニントランスポーターで取り込まれ、セロトニン輸送を阻害するためと考えられている。

・Gut-brain axis metformin
ラットの結果、メトフォルミンが、腸管のGLP-1受容体を活性化、AMPKの活性化を介して、腸管の迷走神経求心路を経由し、延髄弧束核 (the nucleus of the solitary tracts, NTS) の N-methyl-D-aspartate receptor (NMDA) を活性化、hepatic glucose production を抑制する。

・メトフォルミンは、2型糖尿病で、butyrate-producing taxa を増やす。

McCreight LJ, Bailey CJ, Pearson ER. Metformin and the gastrointestinal tract Diabetologia First online: 16 January 2016

Madiraju AK et al. Metformin suppresses gluconeogenesis by inhibiting mitochondrial glycerophosphate dehydrogenase. Nature. 2014 Jun 26;510(7506):542-6.

Thomas C, Gioiello A, Noriega L et al. TGR5-mediated bile acid sensing controls glucose homeostasis. Cell Metab 10:167–177, 2009 

Duca FA et al. Metformin activates a duodenal Ampk-dependent pathway to lower hepatic glucose production in rats.Nat Med. 2015 May;21(5):506-11. doi: 10.1038/nm.3787. Epub 2015 Apr 6.

Qin, J. et al. A metagenome-wide association study of gut microbiota in type 2 diabetes. Nature 490, 55–60 (2012).

 

メトフォルミンと腸内細菌

2型糖尿病の腸内細菌は酪酸産生群が減少している。1, 2)

メトフォルミン投与後2型糖尿病患者の便では、酪酸、プロピオン酸の代謝産物が増加している。
これらの短鎖脂肪酸は、マウスで腸管内糖新生のトリガーとなることが報告されている。
腸管内糖新生の増加は、肝糖産生低下、食欲低下、体重低下作用があり、血糖値に好影響となる。3)

メトフォルミンは血糖低下効果のある短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌を増加させる。3) 

他の糖尿病薬では、腸内細菌の変化を示す結果は認められなかった。4)

メトフォルミンは2型糖尿病の腸内細菌異常 dysbiosis をシフトさせる。

1. Qin, J. et al. A metagenome-wide association study of gut microbiota in type 2 diabetes. Nature 490, 55–60 (2012).

2.Karlsson FH et al. Gut metagenome in European women with normal, impaired and diabetic glucose control. Nature. 2013 Jun 6;498(7452):99-103. doi: 10.1038/nature12198. Epub 2013 May 29.

3. Forslund K et al. Disentangling type 2 diabetes and metformin treatment signatures in the human gut microbiota. Nature. 2015 Dec 2. doi: 10.1038/nature15766. [Epub ahead of print]

メトフォルミンが、十二指腸のAMPKを抑制し肝糖産生を抑制する。

マウスの十二指腸へ注入されたメトフォルミンは、十二指腸のAMP-activated protein kinase (AMPK) を活性化し、肝糖放出を抑制する。

GLP-1受容体拮抗薬 Exemdin-9 、Protein kinase A (PKA) のchemical inhibitor Rp-cAMPsが、メトフォルミンの作用を打ち消すことから、AMPK、GLP-1受容体、PKAを介するシグナリング経路である。

延髄弧朿核および迷走神経抑制、肝臓の迷走神経切除でも、メトフォルミンの効果は認められなくなる。メトフォルミンの十二指腸投与により、腸管迷走神経求心路、延髄、迷走神経遠心路を介して、腸管、脳、肝臓のクロストークが起こっている。

Duca FA et al. Metformin activates a duodenal Ampk-dependent pathway to lower hepatic glucose production in rats. Nat Med. 2015 May;21(5):506-11. doi: 10.1038/nm.3787.




プロフィール

N. Ishizuka

Author:N. Ishizuka
糖尿病専門医です。インスリン分泌の基礎研究を経て臨床に戻りました。これまで読んだ論文を臨床に生かしていこうと思い、ブログ形式でまとめています。

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