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過栄養によるβ細胞のストレスとデトックス経路

糖毒性Glucotoxicity、糖脂質毒性 Glucolipotoxicity によるβ細胞のストレス
・小胞体、ミトコンドリア、酸化ストレス
高次構造異常のあるタンパク質が蓄積した際に、異常タンパク質を修復するための小胞体シャペロンが転写誘導される。この応答はUnfolded Protein Response (UPR)もしくは小胞体ストレス応答ER Stress Responseと呼ばれている。
インスリン生合成の維持にはUPRが必要である。β細胞で高血糖に暴露されたのちUPRをになうTxnip、Myc、Chopは上昇する。UPR component であるAtf6の抑制は、高血糖によるインスリン遺伝子発現の抑制を予防する。β細胞にはantioxidant enzyme の発現が少ないため reactive oxygen species を捕捉するキャパシティが低い。グルコース上昇単独あるいはグルコースと遊離脂肪酸(FFA)の上昇では、ミトコンドリアの分裂と融合を変化させ、エネルギー代謝に影響し、β細胞のアポトーシスに関与する。

・Dedifferentiation
β細胞特有の遺伝子発現の低下 (MafA、PDX1、NeuroD1、NKX6.1、Glut2、glucokinase)があり、本来、β細胞に発現しない lactate dehydrogenase 、glucose-6-phosphatase、hexokinase が発現する。

・ミトコンドリア電位依存性陰イオンチャネルの細胞膜上の発現増加
ミトコンドリア外膜の電位依存性陰イオンチャネル (voltage-dependent anion channel-1 (VDAC1))の発現は、非糖尿病者でA1C値と相関する。高血糖下では、VDAC1の細胞膜/細胞質比が上昇し、細胞膜上の発現が増加する。その結果ATPを損失し2型糖尿病患者の膵島β細胞の機能低下の原因となる。

アミノ酸による過栄養によるストレス
1969年Fleig らは、分枝鎖アミノ酸(BCAA)と肥満、インスリン抵抗性との関連を指摘している。分枝鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸は、mTORを活性化し、肥満、インスリン抵抗性、その結果としての2型糖尿病の発症率と関連している。肥満者で上昇しているBCAAがβ細胞分子機能やインスリン感受性に変化を与え糖尿病発症を誘発している可能性があるがそのメカニズムは不明である。

グルタミンは代謝産物を経由してインスリン分泌を促進する。またグルタミンはIGF2/IGF1受容体シグナリングを介してβ細胞の増殖を促進すると。グリシンは中枢性、末梢性のメカニズムでグルコースによるインスリン分泌やグルコースホメオスタシスを促進する。

高タンパク食による血漿中アミノ酸上昇は、β細胞の機能やGLP-1分泌を改善する。これまでの報告で、アミノ酸上昇はインスリン分泌増強という点で肥満者のβ細胞機能には全般的に良い影響を与えている。

これらの一部は軽度の栄養ストレスに対する適応過程かもしれないがβ細胞の疲弊(β-cell exhaustion) に関与するかもしれない。慢性的にさまざまなアミノ酸が上昇することが、高血糖や高脂血症と相乗的に作用してβ細胞にnegative impact を与えるかどうかさらに検討する必要がある。

デトックス経路
・Glycerolipid/FFA cycle
Glycerolipid/FFA cycleは、ATPを消費するため、インスリン分泌に対するfuel signaling として作用するだけでなくfuel-excess detoxication の役割も果たしている。

・グリセロールの排出
哺乳類ではじめてグリセロール3リン酸(Gro3P)をグリセロールへ加水分解する酵素Gro3Pフォスファターゼ (Gro3PP)が見出された。グリセロールは細胞外へ排出される。Gro3PPのノックダウンはin vitroで糖毒性を悪化させる。Gro3PPの過剰発現はグルコースと過剰なFFAによるアポトーシスへのtoxic effect を軽減する。

・脂肪酸酸化
Carnitine palmitoyl transferase 1 (CPT1) は脂肪酸酸化の律速段階となる酵素で、CPT1の抑制はβ細胞のlipotoxicity を悪化させる。PPARαシグナリングも脂肪酸酸化に重要で、高グルコース濃度ではPPARα発現が低下する。

・FFA の放出
高血糖下でβ細胞はグリセロールだけでなくFFAも放出している。

・中性脂肪、コレステロール、コレステロールエステル、グリコーゲンの形成
解糖系に入った炭素の15%、10%、5%がそれぞれ中性脂肪、コレステロールエステル、グリコーゲンに変換される。コレステロールの放出はデトックス経路の一部であると考えられる。

・無益回路(Futile cycle) とミトコンドリア脱共役
解糖系ではグルコースかビルビル酸へGluconeogenesisではピルビン酸がグルコースとなりATPが消費される。ミトコンドリア脱共役では熱産生thermogenesis が生じる。FFAは β細胞で急速に脱共役タンパク(uncoupling protein)2を誘導する。UCP-2のuncoupling protein としての役割については議論が分かれている。

・クエン酸やクレブス回路の中間代謝産物の放出
INS-1細胞では解糖系に入った炭素の20%がクエン酸として放出されている。

Prentki M et al. Nutrient-Induced Metabolic Stress, Adaptation, Detoxification, and Toxicity in the Pancreatic β-Cell. Diabetes. 2020 Mar;69(3):279-290.

UPR研究がガードナー賞を獲得するまでの経緯 京都大学大学院 森研究室

Preserving Insulin Secretion in Diabetes by Inhibiting VDAC1 Overexpression and Surface Translocation in β Cells. Cell Metab. 2019 Jan 8;29(1):64-77.e6.

Mugabo Y et al. Identification of a mammalian glycerol- 3-phosphate phosphatase: role in metabolism and signaling in pancreatic β-cells and hepatocytes. Proc Natl Acad Sci U S A 2016;113:E430–E439

β細胞の代謝シグナル(4)

 モノアシルグリセロール (MAG)を加水分解するABHD6 の発現を抑制したマウスでは、高脂肪食で肥満が起こらない。摂餌量が低下、エネルギー消費量が増加する。
MAGの上昇は、PPARα、PPARγを活性化し、褐色脂肪細胞を増加させる。
摂餌量が低下した原因は明らかでない。

Zhao S. et al. α/β-Hydrolase Domain 6 Deletion Induces Adipose Browning and Prevents Obesity and Type 2 Diabetes. Cell Rep. 2016 Mar 29;14(12):2872-88.

β細胞の代謝シグナル(3)

 β細胞でグルコース、FFA、アミノ酸が代謝される。

グルコースの代謝産物 Glycerol-3-phosphate は、Glycerol/FFA cycle へも合流する。
(グルコース→glucose-6-phosphate → dihydroxyacetone phosphate → Glycerol-3-phosphate →Glycerol/FFA cycle)
Glycerol/FFA cycleから生じるモノアシルグリセロール (MAG) は、グルコース刺激インスリン分泌を増強する。MAGは、Munc-18に結合し、インスリンの exocytosisを促進する。

グルタミンは、グルタミナーゼによりグルタミン酸となる。
グルタミン酸は、ミトコンドリアマトリックスで、glutamate dehydrogenase (GDH) により代謝され、α-ケトグルタル酸となりTCA cycle に入る。GDH の gain-of-function mutation は、hyperinsulinemic hypoglycemic syndrome の原因となる。この疾患ではタンパク質の多い食事で低血糖が誘発される。
ロイシンは、GDHを活性化する 。

Prentki M, Matschinsky FM, Madiraju SR. Metabolic signaling in fuel-induced insulin secretion. Cell Metab. 2013 Aug 6;18(2):162-85. doi: 10.1016/j.cmet.2013.05.018. Epub 2013 Jun 20.

Zhao S. et al. α/β-Hydrolase domain-6-accessible monoacylglycerol controls glucose-stimulated insulin secretion. Cell Metab. 2014 Jun 3;19(6):993-1007. doi: 10.1016/j.cmet.2014.04.003. Epub 2014 May 8.

インスリン分泌に関連する代謝シグナル(2)β細胞で、Hexokinase-I, LDH、Monocarboxylate transporter (MCT)-1 の発現は低い。

<β細胞で、hexokinase-I, LDH、Monocarboxylate transporter (MCT)-1 の発現は低い。>
 
Lactate dehydrogenase (LDH) はピルビン酸と乳酸の反応を触媒する。
MCT-1は生体膜に存在する、ピルビン酸、乳酸など、Monocarbohydrate のトランスポーター
 
運動で筋肉から生じた乳酸、ピルビン酸がインスリン分泌を刺激して低血糖を生じないように、LDH 、MCT が抑制されている。
 
また、グルコースに対するKm値の低い hekisokinase-1 発現が低い。Km値の高い glucokinase (hexokinase IV) がグルコース応答性インスリン分泌に重要となっている。1)

<β細胞では、グリセロールリン酸シャトルのkey enzyme である mGPD の発現が増加している。>
グリセロールリン酸シャトルは、解糖系で産生されたNADHを酸化する。
Mitochondrial Glycerol Phosphate Dehydrogenase (mGPD)はグリセロールリン酸シャトルのkey enzyme で、β細胞ではmGPD が非常に多い(abundant)。



1. Prentki M, Matschinsky FM, Madiraju SR. Metabolic Signaling in Fuel-Induced Insulin Secretion.Cell Metab. 2013 Aug 6;18(2):162-85.

2. MacDonald MJ, Efendić S, Ostenson CG. Diabetes. 1996 Jul;45(7):886-90. Normalization by Insulin Treatment of Low Mitochondrial Glycerol Phosphate Dehydrogenase and Pyruvate Carboxylase in Pancreatic Islets of the GK Rat
GKラットでは、mGPD 活性が低下している。インスリン治療により血糖値を正常化するとmGPD活性も正常化する。
 
3.  MacDonald MJ. J Biol Chem 256:8287-8290, 1981 High content of mitochondria! glycerol 3-phosphate dehydrogenase in pancreatic islets and its inhibition by diazoxide. 
 
(2014_0821 改訂)

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インスリン分泌に関連する代謝シグナル

「インスリン分泌の総説で、グルコース刺激による細胞内カルシウム上昇はそれほど多くなく、インスリン顆粒がbrake state から細胞膜へ放出されるには少ない。」1)という記述を読んで、代謝シグナルに興味を持ちました。

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アルギニンに対するインスリン分泌と、α細胞のアルギニン負荷

糖尿病学会に行って、まとめておきたいこと、調べてみたいことがたくさんできました。
2型糖尿病でのインスリン分泌は、グルコース刺激では低下しているものの、アルギニン刺激によるインスリン分泌は保たれている理由と、グルカゴン分泌検査でアルギニンを使う理由をJoslin's Diabetes Mellitusで調べてみました。

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N. Ishizuka

Author:N. Ishizuka
糖尿病専門医です。インスリン分泌の基礎研究を経て臨床に戻りました。これまで読んだ論文を臨床に生かしていこうと思い、ブログ形式でまとめています。

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