1型糖尿病で運動による低血糖を最小限にするために

 1型糖尿病で中等度の運動中に、皮下のインスリン吸収が促進し、血中インスリン値は一時的に上昇する。運動前の血糖値が低め〜正常の場合は、炭水化物摂取が必要。

ポンプ使用者の14人のクロスオーバートライアル、中等度のエアロバイク30分の運動を行う60分前に基礎インスリン値を50%減量を開始、210分間継続した。運動開始15分、30分で、安静時に比べ血中インスリン値は上昇し (15分後、6 ± 2 pmol/l 、30分後、5 ± 2 pmol/l )、運動後、急速に低下する。安静では基礎インスリン減量後、時間とともに血中インスリン濃度が低下する。運動は一過性に (transient) 血中インスリン値を上昇させる。 

14人中3人は、運動による低血糖の予防および治療のため炭水化物を補充した。この3人の運動前の血糖値平均は90 mg/dlであった。11人は運動により血糖値は14.4mg/dl上昇し、運動前の血糖値平均は151 mg/dl であった。
運動前の血糖値が低い場合、正常な場合は、基礎インスリンの減量のみでは、運動による低血糖を予防できない。

運動中、一時的に血中インスリン値が上昇する機序
・心拍出量が増加、体温調節のため皮下血流量が増加し皮下でインスリン吸収が促進される。
・運動時に腎血流量が低下し、腎のインスリンクリアランスが変化する。
運動後、皮下インスリンリザーバーが涸渇し急速に血中インスリンは低下する。

・運動中インスリン値が上昇するが、パラドキシカルに血糖値は増加する。この点には、counter regulatory hormone が関与するのかもしれない。

1型糖尿病で運動による低血糖を最小限にするために 2)
・運動前に炭水化物を摂取する。減量した bolus insulin を打つ場合、打たない場合もある。
・運動前にbasal insulin を減量する。(インスリンポンプでなく注射の場合はやや難しい。)
・食事後2〜3時間以内に運動する場合、bolus insulin を減量する。
・夜間低血糖、運動後の後発低血糖 (delayed post exercise hypoglycemia) を減らすために、運動後、basal/bolus insulin を減量する。
・負荷の強いレジスタンス運動 ( resistance/high intensity exercise) を先に、有酸素運動は後に行う。
・インスリン量の減量、炭水化物の補食を決めるため、持続血糖モニターなど新しいテクノロジーを使うことも考慮する。

1 McAuley SA et al. Insulin pump basal adjustment for exercise in type 1 diabetes: a randomised crossover study. Diabetologia. 2016 Aug;59(8):1636-44. doi: 10.1007/s00125-016-3981-9. Epub 2016 May 11.

2 Habit H, Leelarathna L. Basal insulin delivery reduction for exercise in type 1 diabetes: finding the sweet spot. Diabetologia. 2016 Aug;59(8):1628-31. doi: 10.1007/s00125-016-4010-8.

インクレチン作用のレビュー 2

インクレチン作用
健常者で経口グルコース投与が、経静脈投与に比べインスリン分泌を誘導する現象を指す。
GLP-1、GIPをはじめとする腸管ホルモンの他、神経系、胆汁酸なども関与する。
同様な血糖値曲線を示すグルコース投与量で比較している。(経口75 g vs. 経静脈29 g, SD6)
'The incretin effect describes the phenomenon whereby oral glucose elicits higher insulin secretory responses than does intravenous glucose, despite inducing similar levels of glycaemia, in healthy individuals.'

GIPは、経口グルコース投与でGLP-1より血中濃度が上昇する。
グルカゴンは、GIP、GLP-2分泌を刺激し、経静脈グルコース投与で、グルカゴン分泌がより抑制されることが関係するかもしれない。
GLP-1は、Gastric emptying を抑制するため、インスリン分泌促進には対立した作用がある。
GIPがインスリン分泌促進というインクレチン作用の大部分を担い、GLP-1の役割は少ない。
'By contrast, GLP-1 probably contributes to a minor proportion of the incretin effect, partly because effects on gastric emptying oppose those on the endocrine pancreas with respect to insulin secretory responses.'

インクレチン作用の減弱あるいは欠損
2型糖尿病では、GLP-1によるインスリン分泌反応は残るが、GIPによるインスリン分泌は認められない。
メタアナリシスで、2型糖尿病と正常耐糖能者の間で、GLP-1、GIP分泌に違いは見られない。
なぜ2型糖尿病でGIPによるインスリン分泌誘導が消失するのか未だ明らかでない。GIP受容体の回復は治療のアプローチとなる。

DPP4阻害薬とインクレチン作用
DPP4阻害薬は、血糖値を下げ、インスリン分泌を増加させる。一方、経口グルコース投与と血糖クランプで評価したインクレチン作用は改善させない。

Nauck MA, Meier JJ. The incretin effect in healthy individuals and those with type 2 diabetes: physiology, pathophysiology, and response to therapeutic interventions. Lancet Diabetes Endocrinol. 2016 Jun;4(6):525-36

 

グルカゴンは中枢性に食欲を抑制し、肝糖放出を減少させる。

動物でグルカゴンの脳室内投与により食欲が抑制される。

内側基底視床下部 (mediobasal hypothalamus (MBH)) 、迷走神経背側核 (dorsal vagal complex (DVC)) へのグルカゴン注入は、肝糖放出を抑制する。グルカゴン受容体、PKA シグナリング、KATP channel を介している。

高タンパク食では低タンパク食に比べ、血中グルカゴン値が上昇するにもかかわらず、食後血糖値が増加しにくい。
DVCでグルカゴンシグナルをブロックすると、高タンパク食での食後血糖抑制が消失する。
インスリン、GLP-1、レプチンも、DVCを介して、血糖値と食行動を制御している。

Abraham MA, Lam TK. Glucagon action in the brain. Diabetologia. 2016 Jul;59(7):1367-71.

LaPierre MP, Abraham MA, Yue JT, Filippi BM, Lam TK. Glucagon signalling in the dorsal vagal complex is sufficient and necessary for high-protein feeding to regulate glucose homeostasis in vivo. EMBO Rep. 2015Oct;16(10):1299-307.


GLP-1、GIP、グルカゴンのtriple agonist の血糖値改善と体重減少効果

エクゼナチドは、PKA活性化、eNOS刺激を介して血小板凝集を抑制する。

 cyclic adenosine monophosphate/protein kinase A (cAMP/PKA) シグナリングカスケードは血小板凝集を抑制する。
プロスタサイクリンI2 (PGI2) は、血小板のGs-coupled prostacyclin receptor に結合し、cAMP/PKAシグナリングカスケード刺激する。その結果、Ras、Rho ファミリーが不活化され、カルシウム放出が低下、actin cytoskeleton modulationにより、血小板凝集が抑制される。

ヒト巨核球 cell line MEG-01 に、GLP-1受容体が発現している。GLP-1受容体作動薬エクゼナチドは、MEG-01の細胞内 cAMP 濃度を上昇させ、トロンビン、ADP、コラーゲンによる血小板凝集を抑制する。
血管内皮に eNOS が欠損したマウスの血栓形成モデルで、エクゼナチドの血小板凝集抑制作用は認められず。
マウス尾静脈で、エクゼナチドは出血時間に影響を与えない。

エクゼナチドは、血小板および血管内皮細胞で adenylyl cyclase を活性化、cAMP上昇、PKAを介してeNOSを活性化する。
血小板内のNO上昇は、soluble guanylyl cyclase を活性化し、cyclic guanosine monophosphate、protein kinase G を刺激し、血小板凝集を抑制する。

ヒトの血小板及び血管内皮細胞に、GLP-1受容体 (canonical GLP-1 receptor) が発現しているかはまだ確定していない。

Cameron-Venzdrig, A et al. Glucagon- like peptide-1 receptor activation attenuates platelet aggregation and thrombosis. Diabetes 2016 65, 1714–1723.

Jia G, Aroor AR, Sowers JR. Glucagon-Like Peptide 1 Receptor Activation and Platelet Function: Beyond Glycemic Control. Diabetes. 2016 Jun;65(6):1487-9.
分かりやすい図があります。

Beck F et al. Time-resolved characterization of cAMP/PKA-dependent signaling reveals that platelet inhibition is a concerted process involving multiple signaling pathways. Blood. 2014 Jan 30;123(5):e1-e10.

Drucker DJ. The Cardiovascular Biology of Glucagon-like Peptide-1 Cell Metab. 2016 Jun 22. pii: S1550-4131(16)30295-9.

プロフィール

N. Ishizuka

Author:N. Ishizuka
糖尿病専門医です。インスリン分泌の基礎研究を経て臨床に戻りました。これまで読んだ論文を臨床に生かしていこうと思い、ブログ形式でまとめています。

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