β細胞の量の低下か機能異常か

Doulas Melton のレビュー1)で引かれていた、2型糖尿病の総説 (Ashcroft FM, Rorsman P , 2012) 2)はここ10年のトピックスが分かりやすく解説されていた。糖尿病の発症原因としてβ細胞量が注目されているが、Cross sectional なデータであって、longitudinalなデータがない。膵島の機能異常が主原因という考え方もある。
 
また、β細胞量は個人差が大きいが、一般にヒトのβ細胞の増殖能は5歳でピークとなり年齢とともに減少する。数式モデルでは、20歳までにβ細胞数は決まり、マウスに比べ遥かに寿命が長いことが報告されている。

β細胞量の減少
autopsy のデータでβ細胞量が60%減少すると糖尿病が発症する。2, 3)
ヨーロッパからの報告、β細胞量が39%減少すると糖尿病が発症する。2, 4) 
しかしこれらはCross sectional なデータであって、longitudinalなデータがない
 
β細胞量は2型糖尿病である程度の役割を果たしているが、β細胞のみが唯一、あるいは一番重要ということではない。
β細胞数よりむしろβ細胞の機能異常が重要であるとういうデータがある。
 
Collectively, these findings suggest that although β cell mass plays some role in T2DM, it is not the only, or even the most important, factor. The finding that insulin secretion from T2DM islets is reduced even when allowance is made for a slight reduction of insulin content (Figure 2) implicates β cell function rather than β cell number in the etiology of T2DM.2)
 
50%膵切除で、空腹時血糖はやや上昇 (p=0.01)するのみ。6)
 
β細胞の機能低下
2型糖尿病の膵島で、グルコースによるインスリン分泌は低下しているが、アルギニン、グリベンクラミド刺激によるインスリン分泌はそれほど低下していない。
GLUT1, GLUT2、 glucokokinase、インスリンのmRNA発現は低下し、PDX-1、Foxo-1 発現は増加している。
膵島の酸化ストレスは増加し、glutathione 処置で酸化ストレスを低下させると、インスリン分泌は改善する。膵島の機能低下の一部は回復可能である。5)
 
β細胞の増殖能と寿命
子供では、β細胞増殖があり、新生児低血糖症で膵部分切除を行っても、年齢が若いと大人になってから糖尿病となるリスクは低い。げっ歯類と異なり、ビトでは50%pancreatectomy がβ細胞のregeneration を起こすことはない。
50%膵切除の膵管上皮でインスリン陽性細胞の比率は有意差なし。6)
 
<LB定量の結果、マウスに比べ人のβ細胞の寿命は遥かに長い。>7)
リポフスチン小体 (LB) 陽性β細胞数と年齢は相関し、性別、BMIには相関しない。
全くLBを含まないβ細胞は少ない(1歳で11%、5歳で5%、大人で2-3%)
LBが少ないことは、short life history であることを示し、β細胞が、膵管上皮細胞、あるいはほかの前駆細胞から、neogenesis あるいはtransdifferentiation していることを意味する。
数式モデルによるとβ細胞数は20歳までに確定する。
α細胞や分泌顆粒をもたない膵管上皮細胞でもLBは存在するが、β細胞にくらべLBの割合が低い。
 
<5歳未満ではβ細胞の増殖は一般的に認められる。>8)
21歳までの剖検の解析、β細胞量は個人差が大きい。 (individual variation)
Ki67定量で、β細胞の増殖率は5歳までが一番高く、徐々に減少する。思春期に増加することはない。
 
膵切片の解析結果では、膵島の数の増加でなく面積の増加がおこる。
 
膵管上皮のインスリン陽性細胞は年齢とともに減少、病理切片上の、膵島密度(islet density) に相関している。
膵管周辺からの膵島形成は、β-cell replication にかわる、alternative pathwayとして期待されている。
 
1. How to make a functional β-cell Felicia W. Pagliuca, Douglas A. Melton  Development 140, 2472-2483.
 
2. Diabetes mellitus and the β cell: the last ten years. Ashcroft FM, Rorsman P Cell. 2012 Mar 16;148(6):1160-71.
 
3. β-Cell Deficit and Increased β-Cell Apoptosis in Humans With Type 2 Diabetes Diabetes January 2003 vol. 52 no. 1 102-110 Butler AE, Janson J, Bonner-Weir S, Ritzel R, Rizza RA, Butler PC.
 
4. Pancreatic beta-cell mass in European subjects with type 2 diabetes. Rahier J, Guiot Y, Goebbels RM, Sempoux C, Henquin JC.Diabetes Obes Metab. 2008 Nov;10 Suppl 4:32-42.
 
5. Functional and molecular defects of pancreatic islets in human type 2 diabetes. Del Guerra S, Lupi R, Marselli L, Masini M, Bugliani M, Sbrana S, Torri S, Pollera M, Boggi U, Mosca F, Del Prato S, Marchetti P. Diabetes. 2005 Mar;54(3):727-35.
 
6. Partial pancreatectomy in adult humans does not provoke beta-cell regeneration. Menge BA, Tannapfel A, Belyaev O, Drescher R, Müller C, Uhl W, Schmidt WE, Meier JJ. Diabetes. 2008 Jan;57(1):142-9. Epub 2007 Oct 24.
膵炎8、膵癌3、腎癌の膵転移1、IPMT1の解析結果
 
7. The long lifespan and low turnover of human islet beta cells estimated by mathematical modelling of lipofuscin accumulation. Cnop M, Hughes SJ, Igoillo-Esteve M, Hoppa MB, Sayyed F, van de Laar L, Gunter JH, de Koning EJ, Walls GV, Gray DW, Johnson PR, Hansen BC, Morris JF, Pipeleers-Marichal M, Cnop I, Clark A. Diabetologia. 2010 Feb;53(2):321-30.
 
8. Meier JJ, Butler AE, Saisho Y et al (2008) Beta-cell replication is the primary mechanism subserving the postnatal expansion of beta-cell mass in humans. Diabetes 57:1584–1594 
 

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N. Ishizuka

Author:N. Ishizuka
糖尿病専門医です。インスリン分泌の基礎研究を経て臨床に戻りました。これまで読んだ論文を臨床に生かしていこうと思い、ブログ形式でまとめています。

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