甘味受容体とフルクトース、フルクトースの代謝

膵島で、フルクトースは、単独でインスリン分泌を刺激しないが、グルコースによるインスリン分泌を増強する。1, 2)
静脈注射で、フルクトースは血糖値を上昇させる。 インスリン値のピークは血糖値が上昇する前に認める。3, 4)
フルクトースがグルコース存在下でのインスリン分泌を刺激するメカニズムは、何十年もの間不明だった。
 
<甘味受容体とフルクトース> 
2012年、β細胞でフルクトースが、甘味受容体 (sweet taste receptors, TRs) を活性化し、グルコースと共同してインスリン分泌を増強 (amplify) することが示された。1)

マウスで、フルクトース1g/kg iv.は、直後にインスリン値が上昇する。血糖値の上昇はインスリンに遅れて、徐々に起こる。血糖値の上昇は、肝臓、腎臓でフルクトースが代謝された影響と考えられる。
サッカリンは、フルクトースと同様にTRs のligand であるが、フルクトースと異なり肝臓、膵臓で代謝されない。
サッカリン1g/kg iv.は、インスリン値を上昇させるが、血糖値は上昇しない。
 
マウス膵島で、フルクトース 10 mM は、グルコース150 mg/dl でグルコースによるインスリン分泌を増強する。グルコース48mg/dl では、インスリン分泌増強はおこらない
T1R2−/−マウスではフルクトースによるインスリン分泌増強はみとめられない。
 
ヒトの膵島でも、TRs が発現している。血液中のフルクトース濃度は2 mM未満。
ヒトの膵島で、フルクトース3 mMは、グルコース198 mg/dl (11 mM)でインスリンを増強するが、グルコース99 mg/dl (5.5 mM)では増強しない。
 
Phospholipase C (PLC) - IP3を介する経路
TRs は、class-C G protein-coupled receptor で、PLCを活性化し、IP3を介して、ERからカルシウムが動員される。
膵島で、PLCの抑制はフルクトースによるインスリン分泌増強作用が低下する。
グルコース代謝、VDCC活性化とは独立した経路である。
 
TRPM5を介する経路
TRsによりカルシウムが動員され、calcium-activated action channel TRPM5 が活性化される。
 
グルコースの代謝によりKATP channel が閉鎖され、膜は脱分極する。
TRPM5 の活性化はNa 流入を引き起こし、さらに膜の脱分極を促進する。
TRPM5−/−マウスの膵島では、フルクトースによる細胞内カルシウム濃度の 増強効果が認められない。
β細胞でTRPM5は、グルコースによるcalcium oscillation に影響しており、TRPM5-/-では、グルコース応答性インスリン分泌が阻害される。
TRPM5はグルコース刺激経路と、TR経路をリンクさせている。
 
<フルクトースの代謝>
フルクトースは膵島でグルコースの10%程度しか代謝されない。2)
グルコースは、フルクトースにくらべ、ヘキソキナーゼの better substrate である。
 
肝臓、腎臓、小腸にはフルクトキナーゼが発現する。
フルクトースは主に肝臓で代謝され、脂肪酸合成、VLDL産生が起こる。
 
肝臓では、フルクトキナーゼによりphosphofructokinase による regulatory step をバイパスできるので、グルコースよりフルクトースのほうがより早く代謝 (glycolysis) される。5)
 
まとめ
フルクトースは、グルコースによるインスリン分泌を増強する。
フルクトースの経静脈投与は、インスリン値を早期に上昇させ、その後に血糖値が上昇する。
血糖の上昇はフルクトースが肝臓、腎臓で代謝された結果である。
 
フルクトースのインスリン分泌増強は、甘味レセプターを介する。
甘味レセプターはGPCR で、①PLC、IP3を介して細胞内カルシウムを上昇させる。②calcium-activated action channel TRPM5を活性化し、Na+流入を介して、細胞膜を脱分極させることにより、インスリン分泌を増強する。
 
感想
フルクトース、ガラクトースはなぜインスリン分泌のトリガーとならないのかを調べはじめて、フルクトースと甘味受容体の論文にあたりました。
代謝マップでは、他の糖類もピルビン酸経路にはいってATPを産生することになっているのでインスリン分泌のトリガーとなりそうですが、膵島ではグルコースが優先的にエネルギー源として使われるシステムになっていた。
膵島での利用モル数で比べると、フルクトースは、グルコースの10%しかない。
フルクトースは膵島でほとんど代謝されないのでインスリン分泌のトリガーとならないが、膵島の甘味受容体に作用してインスリン分泌を増強する作用がある。
 
1. Kyriazis GA, Soundarapandian MM, Tyrberg B. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Feb 21;109(8):E524-32. Sweet taste receptor signaling in beta cells mediates fructose-induced potentiation of glucose-stimulated insulin secretion.
 
2. Zawalich WS, Rognstad R, Pagliara AS, Matschinsky FM.J Biol Chem. 1977 Dec 10;252(23):8519-23.
A comparison of the utilization rates and hormone-releasing actions of glucose, mannose, and fructose in isolated pancreatic islets.
グルコースとマンノースはインスリン分泌を刺激する。
フルクトースは50mMであってもインスリン分泌を刺激しないが、グルコースの存在下でインスリン分泌を増強する。
 
3. GRODSKY GM, BATTS AA, BENNETT LL, VCELLA C, MCWILLIAMS NB, SMITH DF. AJP - Legacy Content October 1, 1963 vol. 205 no. 4 638-644   Effects of carbohydrates on secretion of insulin from isolated rat pancreas
ガラクトースの静脈注射は血糖値、インスリン値とも上昇しない。
 
4. Ashcroft SJ, Crossley JR. Diabetologia. 1975 Aug;11(4):279-84 The effects of glucose, N-acetylglucosamine, glyceraldehyde and other sugars on insulin release in vivo.
Fructose, glucosamine, and DL-glyceraldehyde は血糖値を上昇させるが、 インスリン値のピークは血糖値が上昇する前に認める。
 
5. Harpers Illustrated Biochemistry 29th Edition (LANGE Basic Science) 
 

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N. Ishizuka

Author:N. Ishizuka
糖尿病専門医です。インスリン分泌の基礎研究を経て臨床に戻りました。これまで読んだ論文を臨床に生かしていこうと思い、ブログ形式でまとめています。

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