インスリン分泌における亜鉛の役割 ZnT8と糖尿病2

1) 亜鉛はインスリンのクリスタル形成に重要
2) 亜鉛はインスリン分泌を抑制、肝臓ではインスリンのクリアランスを抑制している。
3) 血中亜鉛濃度が高いと糖尿病のリスクが低下する。

<亜鉛はインスリンのクリスタル形成に重要>
全身のZnT8欠損マウスはインスリン合成、含量、グルコース刺激によるインスリン分泌は正常。高脂肪食では、耐糖能異常あるいは糖尿病となりグルコース刺激インスリン分泌が低下する。
 
亜鉛は insulin crystal 形成に重要で、インスリン貯蔵の効率に影響する。
このマウスでは、電子顕微鏡で特徴的なdense core and halo が認められない。インスリン分泌小胞の直径が大きい。プロインスリンとインスリンの比率は変わらず、インスリンのprocessing は障害されていない。
インスリンが亜鉛を中心としたクリスタルを形成しないため、分泌小胞内へのpackagingが正常と異なり、インスリン分泌顆粒の径が大きくなると考えられる。
高脂肪食下、すなわち、metabolic demand が変化した際に糖尿病を発症する。
 
亜鉛は、グルカゴン分泌を抑制する。このマウスでグルコース刺激による亜鉛分泌も低下している。亜鉛が少ないためグルカゴン抑制が解除され、耐糖能が悪化する可能性も考えうるが、ZnT8欠損マウスで、血中グルカゴンは高くなく、単離膵島でグルコースによるグルカゴン抑制が認められている。1)
 
<亜鉛はインスリン分泌を抑制、肝臓ではインスリンのクリアランスを抑制している。>
膵β細胞特異的にZnT8を欠損させたマウスでは、グルコース刺激によるインスリン分泌は亢進している。亜鉛はインスリン分泌を抑制し、このマウスで膵島の亜鉛含量が低下していることによる。
 
一方、肝臓で、亜鉛はインスリン受容体の internalization を抑制して、インスリンのクリアランスを抑制する。
このマウスでは門脈内の亜鉛濃度が低下しており、インスリンのクリアランス抑制が解除される。その結果、門脈血中のインスリン濃度が高いにもかかわらず、肝臓でインスリンのクリアランスが亢進し、末梢のインスリン濃度はコントロールと変わらなくなる。
 
インスリンは肝臓でクリアランスを受けるが、Cペプチド(CPR) はクリアランスされない。末梢血のCPR/インスリン比は、肝臓でのインスリンクリアランスの状況を反映している。このマウスはと糖負荷試験試験で、CPR/インスリン比が高く、インスリンのクリアランスが亢進している。2)
 
ZnT8 rs13266634  リスクアリル保持者でも、糖負荷試験におけるCPR/インスリン比が高く肝臓でのインスリンクリアランスが亢進している。2)
 
<血中亜鉛濃度が高いと糖尿病のリスクが低下する。>
ZnT8 rs13266634 のsingle nucleotide polymorphism C→Tはアミノ酸の置換をともなう。 
C アリルはアルギニン(R)を、Tアリルはトリプトファン(W) をコードし、Arg325Trp あるいは R325Wとも表記される。3)
 
Cが糖尿病のリスクアリルである。中国のスタディで、CC genotype の糖尿病発症リスクは、TTに比べ、1.53倍となるが、血中亜鉛濃度が高ければリスクは低下する。4, 5, 6)
 
血液中の亜鉛濃度10 µg/dl 増加すると、CC genotypeで、糖尿病リスクは22%低下、CTで17%、TTで7%低下する。4, 5)
 
一方、ZnT8の機能喪失を伴うまれな変異が、糖尿病発症予防となることも報告されている。7)
 
1. Lemaire K, Ravier MA, Schraenen A, Creemers JW, Van de Plas R, Granvik M, Van Lommel L, Waelkens E, Chimienti F, Rutter GA, Gilon P, in't Veld PA, Schuit FC. Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Sep 1;106(35):14872-7. Insulin crystallization depends on zinc transporter ZnT8 expression, but is not required for normal glucose homeostasis in mice. 
 
2. Tamaki M, Fujitani Y, Hara A, Uchida T, Tamura Y, Takeno K, Kawaguchi M, Watanabe T, Ogihara T, Fukunaka A, Shimizu T, Mita T, Kanazawa A, Imaizumi MO, Abe T, Kiyonari H, Hojyo S, Fukada T, Kawauchi T, Nagamatsu S, Hirano T, Kawamori R, Watada H. J Clin Invest. 2013 Oct 1;123(10):4513-24 The diabetes-susceptible gene SLC30A8/ZnT8 regulates hepatic insulin clearance. 
 
3.SNPedia Rs13266634
 
4. Shan Z, Bao W, Zhang Y, Rong Y, Wang X, Jin Y, Song Y, Yao P, Sun C, Hu FB, Liu L. Diabetes. 2014 May;63(5):1
 
5. Maruthur NM1 Mitchell BD. Diabetes. 2014 May;63(5):1463-4. Zinc-rs13266634 and the arrival of diabetes pharmacogenetics: the "zinc mystique". 
 
6. Sun Q, van Dam RM, Willett WC, Hu FB. Diabetes Care. 2009 Apr;32(4):629-34. Prospective study of zinc intake and risk of type 2 diabetes in women.
 
7. Flannick J el al. Nat Genet. 2014 Apr;46(4):357-63. Loss-of-function mutations in SLC30A8 protect against type 2 diabetes.
 
 
 


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N. Ishizuka

Author:N. Ishizuka
糖尿病専門医です。インスリン分泌の基礎研究を経て臨床に戻りました。これまで読んだ論文を臨床に生かしていこうと思い、ブログ形式でまとめています。

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